はさみ

はさみ

 しゃきしゃきしゃき。
 ハサミを使う音が空気に混じる。
 ばさばさと髪がシーツの上に落ちるのをナルトは見ていた。
 目の前には部屋から持ち出した姿見。
 ばさり。
 一房止めていたピンが引き抜かれ切られてない髪が落ちる。
 カカシはそのピンを口に咥えると、人差し指と中指でナルトの髪を挟み器用にカットしていく。
「こなひだ、またおふなふったはんはって?」
 ピンを口に咥えたまま話すので何を言ってるかわからない。
「何?」
 ナルトが問い返すと、カカシはハサミを持った手でピンを扱い襟元をはさむ。
「女、振ったんだって?」
「うん」
 ナルトはめんどくさそうに返事をして、切られ落ちていく自分の髪をシーツの隙間から手を出して摘んだ。
「何でよ?」
「んー。めんどくさくなったから」
「お前ね。若いうちは何事も経験よ。来るもの拒まずで付き合ってみたら?」
「いや、付き合ったんだってば。そしたら、ほら、長期任務入っただろ? で、ほぽっといたらあっちが勝手に切れただけだってば」
 今だ下忍のナルトだがやってる仕事は暗部や上忍とそうかわりが無い。変わったのは体格と少しだけ喧嘩っ早い性格が落ち着いたくらいで、四年前の十二歳のナルトとそうかわってはない。
「で、めんどくさいから別れてくれって言っちゃったの?」
「なんで知ってるんだってば?」
 カカシにその話をした事はない。
「おまえねえ。結構有名人なのよ? 自覚持ちなさいよ」
「なんで?」
「自覚無いってのは、恐ろしいね」
「九尾?」
 姿見の中のナルトの眉が寄る。
「何でもかんでも九尾に結び付けて考えるのよしなさいよ。昔と違って里の人間も変わったんだから」
 死んでいくもの、里を出るもの、新しい命、里に入るもの。入れ替わり立ち代り。
 九尾への恨みは消えてはいないが、昔よりはナルトに住み易い里になっていると思う。
 ハサミをバックポケットに入れると、ナルトの耳を両手で挟んでぐいと顔を上げさせる。
 横に自分の顔を置くと、ナルトの髪のカット具合をカカシは確かめた。
「うん。男前になった」
 首に巻いたシーツを解いて、ばさりと髪をはらう。金色の髪はふわりと風に乗ってまかれた。
「坊主でもよかったのに」
 渡された手鏡を覗き込みながらナルトが呟けばばさばさと残りの髪をはらいながらカカシが呆れたような笑みを浮かべる。
「昔なら嫌がったのに」
「サクラちゃんにもてたくて必死だったから」
 そう言って、ナルトは懐かしむようにくすりと笑う。
 サクラを思うと同時に痛みを蘇ってくる。
 サスケ。
 サスケが行ってしまった痛手はかなり大きくて、お互い傷を舐めあう獣みたいにSEXした。サクラとのSEXの思い出は痛みしか残ってない。
 後にも先にもサクラと寝たのはそれ一回で、今では性別を超えた親友みたいになってる。
「最近、カッコイイって女の子達に騒がれているの知らないの?」
「はぁ?」
「知らないならいいよ」
 庭に出した椅子は案外気持ちよくてナルトはそのままボンヤリ腰を下ろしていた。
「どいてくれない。邪魔なんだけど」
 カカシが箒を持ってナルトを追い立てる。
「先生。あのさ。俺、先生だけを好きじゃ駄目なの?」
 地面に散った髪を掃きながらカカシは柔らかい笑顔を見せた。
「だーめ。俺なんか年上で上忍だから、お前より先、死んじゃう確立たかいのよ?」
「なんだよ。やだよそれ。例えでも死ぬとか言わないでよ」
「まあ、俺一人に絞るのはまだ早いよ」
 ちりとりにナルトの髪を納め、腰を伸ばしてカカシはナルトを見て微笑んだ。
「わかんねーの。普通恋人の浮気推奨する、彼氏っている?」
「俺」
「そのくせ、先生は俺一本の癖に。ずりいってばよ!」
 縁側でぶすくれてナルトが膝をかかえる。
 庭の片隅にある焼却炉にカカシは髪を捨てた。
「俺はナルトが幸せならいいのよ」
「こんな中途半端でふらふらしてる状態なんかちっとも幸せじゃねーってばよ」
 ごろんと膝を抱えたまま横になる。
「んー後二年たったら、俺一本にしてもいいよ」
「なんだってばよ。それ」
「んー? 秘密」
 カカシはポケットからハサミを取り出すと指でくるりと回した。
 
 終わり

20051101
おにはち