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ポケット

 子供というものはいつの間にか成長して、気が付くと自分の手の届かない場所にいるもんだ。
 そんな事をアスマだか誰かに聞いたとき、カカシは何か親みたいじゃない何て笑って酒を飲んだものだが、今、それを痛感している。
 いつの間にか片手を頭に乗せて撫でる事も出来なくなった子供が隣で立っている。成長したから子供の時のように気軽に手も繋げなくてどうしていいか判らずポケットに手を突っ込んで猫背で歩いてる大人がいるわけだ。
「先生どうしたんだってば?」
 そういってこちらの顔を覗き込んでくるナルトはあの頃のままのあどけない笑顔だったりして、カカシは少しだけ困ったような笑顔を見せた。
 時折道の両側からナルトに対して挨拶が飛んできて、その度に挨拶したり、手を振ったりと大忙しだ。
「ん。でっかくなったなって」
「うわ、カカシ先生。何かそれってすげー親父くせー!」
 言われてカカシの心臓に大きな刀が刺さった。気にしていた事を平然と子供は言う。少しは気にして欲しいものだと思ってもそんなの相手にわかるはずもなく、ただ困ったように笑顔を浮かべるだけで。その笑顔さえもマスクと額宛に半分以上隠れているので判るかどうか。
「? 先生どうしたの? あ、親父っての気にしてるんだってば?」
 思わず、振り返ったカカシの目には何時もと変わらないナルトの顔が不思議そうに見つめている。
「年取ると、何でそーいうの気にすんのかな?」
 何ていいながら頭の後ろで腕を組んで歩き出す。
「ナルトはさ、こんなオジサンと付き合っていて嫌じゃない?」
 思わず本音をぶつけてしまうと、呆れたように子供が振り返る。
「は? どうして? だって好きなんだもん年齢とか関係ねーだろ?」
 すっぱりと言い切りナルトは笑う。
 追いついて肩を組むと問いかけるように顔を上げた子供の唇に大人はマスク越しに唇を落とした。一瞬周りがざわめく。
「!」
 どんと突き飛ばし、子供は唇をぬぐう。
「だ、だからって、往来で何やっても許すわけねーってばよ!」
 言いながらもナルトはカカシの前から逃げない。恥ずかしそうに俯いてポケットに手を突っ込んで歩いている。
「手、繋ぐ?」
 差し出した手をちらりと見ると、ナルトはそっぽを向きながらぱんっと手を会わせた。ゆっくりとそのまま手のひらを置くので、カカシはにこりと笑って手を握る。
 こんなのもいいかなと、もう片手をポケットの中に入れながら。
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