将来有望!

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「何で何時も何時も遅刻してくるんだ!」
 まるで癇癪玉だ。
 指差しながら怒りまくるカカシをナルトはニコニコ笑って見おろしている。癇癪玉と言うよりは元気のいい柴犬の子犬のようで可愛い。そんな事を本人に言ったら今以上に怒鳴られそうなので笑って聞いてるが、何時もながらよくもこれだけ怒りが持続するものだと感心してしまう。
 マスクで顔が半分隠れてるせいもあってその表情は目に集中されるが、その目がとても感情豊かだ。
「カカシ、そこまでにしておけ」
 サスケが二人の間に入った。一瞬とナルトに目を走らせるがすぐに逸らしてまだ怒り足りないカカシの頭を撫でるように二回叩く。何時もながらいいタイミングで止めに入る。
「すまねーってばよ」
 軽く謝られ、ますますカカシがヒートアップしていく。これも何時もどおり。
「サスケ先生! だって毎日毎日! だからあんた今だ下忍なんだよ!」
 言いすぎだよというようにサクラはカカシの裾をひいた。
 はっとして決まり悪そうにナルトを見るが言われた当人はけろりとした顔をしている。何時も以上にヒートアップして酷い言葉も使ったのにナルトにはどうでも良い言葉だったらしい。その態度にますますムカッ腹をたてたらしいカカシがとどめとばかりにきつい言葉を吐く。
「サスケ先生と同い年の癖に!」
 サスケとナルトは共に十八歳。サスケは上忍ナルトは今だ下忍である。その五つ下にカカシとサクラがいる。
「カカシ。こいつがまだ下忍なのは毎回試験を受けないからだ」
 フォローを入れたつもりだったがカカシにはお気に召さなかったらしく、真っ赤な顔をして怪獣のように口から暴言を吐き出している。怒られているナルトは相変わらずニコニコと笑って怒鳴るカカシを見ている。
「お前なんか一生下忍だ! どうして同じ班なんだ!」
 そう叫ぶと興奮しすぎて上手く息継ぎが出来ずに苦しそうにむせる。慌ててサクラが背中をさすった。苦しいのか目にうっすらと涙が滲んでいた。そこまで興奮しなくてもとナルトは呆れてカカシを見ていると、睨まれたので慌てて目を明後日の方向に反らす。
「まあ、遅刻するなら連絡をいれろ。今日の任務は草むしりだ」
 サスケはナルトに軽く注意をすると今日の任務を皆に告げる。カカシは軍手とゴミ袋をひっつかむと背丈ほどもある草の中にズンズンと分け入った。その後をけなげにサクラが追いかける。
 サクラはカカシを好きな事を本人にも隠そうとしないが、如何せんカカシが鈍すぎるため気づかれていない。
「何? あの二人付き合いだしたんだってば?」
「さあな。興味ない」
 サスケが一瞬噴出して答える。そんな事はありえない。カカシはナルトが好きなのだ。サクラにも負けないくらいカカシの態度は判りやすい。サクラと違うのは本人が上手く隠せてると思い込んでいる事で、そんなのに騙されるのは、大人に意見できてカカシくんカッコイイなどとフィルターをかけて見ている片思いの女子達か、よっぽど鈍い者だけだ。
 ナルトはどうなのかというと、仲間としては好きだ。明らかにカカシの好きと方向が違う。
「ふぅん」
 ふざけてサスケの胸を拳で叩くと方眉を器用にあげて抗議するようにナルトを見る。ナルトは笑顔を返した。サスケの顔が優しくなる。
「任務長引いたんだろ?」
「明け方まで」
「お疲れさん」
 労いの言葉をサスケが告げるとナルトがにかりと笑顔を返した。
 女子としてはどうなんだろうという表情なのだが、サスケはその笑顔が好きだった。
「あーでも今日のカカシのは堪えたってばよ。裏の仕事してなかったらそーとーへこんでた」
 ふっとナルトは淋しそうな笑顔を見せながら軍手を嵌めた。
「だったら慰めてやろうか?」
 顔を上げると本気な眼差しをサスケはナルトに向けていた。その眼差しをかわす様に微笑みを浮かべる。
「ノーサンキューですってばよ。サスケ先生」
 がさりとゴミ袋を持つと笑って草の中に消える。
 うずまきナルトは表向き下忍扱いでサスケの班の班員だが、本当は火影直属の暗部だ。
 十八歳になった今でも下忍のままなので落ちこぼれのレッテルを貼られてよくサスケと比べられるが、本当は比べ物にならないくらいナルトは強い。頭も回る。
 後姿を見おくりながらしょうがないなとため息をつくとサスケも軍手とゴミ袋を持って草の中に分け入った。

 だらしないし、注意するとへらへら笑ってるし女とは思えない態度だし、なのに何で好きなんだろうと考えると自分自身に腹が立って仕方ない。カカシは乱暴に草をぶちぶち引き抜いた。
 多分飾らない所が好きなのだろうなとカカシは思う。豪快に笑う顔もカカシにこびない所も優しい所も。好きなところを思いつくと何気ない仕草まで「好きだな」と判ってしまう。
 任務が成功したときに得意そうに鼻を擦る仕草とか、時々じっと遠くを見ている眼差しとか。
 なのに何時も喧嘩する。カカシが一方的にナルトを怒鳴る。
 サスケにも腹が立ってしまう。本来怒るのはサスケの役目なのに、怒らないし、時々訳知り顔でナルトに頷いてる。その二人の空気に時間の長さと親しさを感じてムッとする。
「カカシくん」
「何だよ!」
 怒りを抱えたままだったのでサクラにぶっきらぼうに返事をしてしまい、怯えたように顔色を伺うサクラにはっとして顔を戻した。
「あーごめん。ちょっと」
「あ、うん。判ってるから」
 何が判ってるんだろうと思うのだが、サクラは便乗して悪口を言ったりしない所がカカシは仲間として気に入っている。
「あ、それでね。任務中にこんな話なんだけど、明後日お祭りでしょ? それで、一緒にいかないかなって」
 ナルトやイノに対しては割りとずばずば言うのだが、惚れた弱みかカカシに対してはしおらしい。
「祭り?」
「夏祭り。鎮守の神様の」
「ああ、そんな時期だっけ?」
 そう言えば周りが浮き足立ってたなと改めて思い返す。チョウジは屋台で何を買って食べるか大声で話していたのを今更思い出した。その時も祭りが近いんだなと思っていたのだが、すっかり忘れていた。
 毎年初夏の頃に木の葉の東側にある鎮守の森で祭りが行われている。かなり大きな祭りで花火大会も一緒に行われていた。
「そ、それでね。一緒にどうかなって」
 ちらりとサクラはカカシを上目遣いに見上げた。恋するもの特有の媚が含まれていたが、カカシはそれにはちらりとも気がつかない。
「後誰来るの?」
「えっ」
 カカシにそう聞き返されてサクラの頭の中は一瞬真っ白になった。サクラとしては二人きりでお祭りに行こうと誘ったつもりだったのだが、カカシは大勢で祭りに行くのだと思ってる。
「え、えっとシカマルとかイノとか他にも何人か声かけてみるつもり」
 二人きりでとも言えずにサクラは咄嗟に名前を出した。咄嗟に名前が出た自分を褒めながら心で泣いていた。
「んー悪いけど。パス」
「え、え?」
 しかも素気無く断られて焦りがさらに増す。サクラとしては祭りで自分の浴衣姿を見てもらい、出切ればそれがきっかけで意識してもらえたらと、心の中で画策しまくりなのでこんな所で断られたくはない。
「ナルトと行くから。あいつ何時も一人で行動してるだろ?」
「ナルト?!」
 何でナルトの名前が出てくるのかサクラにはさっぱり判らない。サクラにとっては二人は物凄く仲が悪い関係に認識してるのだ。サクラだけではなくカカシに片思いの相手なら誰でもそう思っている。いや、思い込みたいのだろう。
 カカシも画策していて、最初からナルトと行く気満々だった。何時もと違うナルトが見たかったし、祭りに誘って一線を越えて見たいとかそんな思いがあったのだ。一線を越えると言ってもまだ可愛らしいものでキスできたらいいなとかそんなものだ。
「あいつ一人で行動するだろ、誘ってやら無いとな」
 しょうがないよなとばかりに言う。サクラは感動して目をキラキラと輝かせてカカシをみつめた。
「優しいんだねカカシくん」
 第三者が聞いていたら思わず突っ込みを二人に入れていただろう。そんな事を堂々とわざとらしく言うカカシもカカシだが、それを優しいのフィルターをかけてみているサクラもサクラだ。
 だが、サクラもそう簡単に諦め切れるものではない。
「あ、そうだ。じゃあさ、ナルトも誘おうよ!」
 サクラはいい事を思いついたとばかりにカカシに提案する。
「え」
 カカシにとっては不幸以外の何物でもない。カカシの頭の中で繰り広げられている絵空事がしぼんでいく。
「そうだ、サスケ先生も誘って皆で行こうよ!」
 藪をつついて蛇が出る。
 咄嗟にそんな諺がカカシの脳裏に浮かんだ。
 用事があるからとだけ断っておけばよかったのだ。ナルトの名前を態々出さなくてもよかったのだが、用意周到なカカシは祭りでサクラ達に出会った時のことも考え、ナルトを誘うからと断ったのだ。良く考えればあんな大勢いる所でサクラ達に会う可能性も低いし、サクラ達が行かないようなルートで祭りを回ればよかったのではないかと今更ながら思いつく。
「ちょっと言ってくるね!」
 固まってるカカシを後にサクラは草の中をナルトのいる方にと進んでいった。

「祭り? いいけどよ」
 ここにも画策している大人が一人。
 サスケの誘いにナルトは頷いた。
 長年の片思いに終止符を打つべく、断られるのを覚悟で誘ってみたのだがあっさりOKしてくれたのでサスケは明らかにほっとした顔をした。
 カカシのように激しく積極的な思いではないが、幼い頃からずっと見守っていて喧嘩も時々して、気の置けない関係になってはいたが、恋人かというとそうではなく、恋人というよりは仲間、友人といった関係でサスケとしてはここらでその関係を壊したかった。成長するたびに遠くなって行くような気持ちが焦りを生み出したのだ。
「おごりだってばよ?」
 焼きそばにたこ焼きリンゴ飴と次々と頭の中で浮かんでは消えていく食べ物たち。そんなナルトの考えを見抜いてサスケは頷く。屋台の食べ物なぞこのさい安いものだ。
「え? まじで? いいってば?」
「別に。屋台の食い物なんて安いものだし」
「うわ、まじで! うわ、すげー楽しみ!」
 抱きつきそうな勢いで喜ぶので、そのつもりで身構えていた。
「ナルトー!」
 がさがさと茂みが揺れてサクラがひょっこり現れた。サスケはがっくりと肩を落とす。サクラが悪いわけではないが、このタイミングに来るなよーと愚痴を心の中でこぼした。
「お、サクラちゃん。どうしたんだってば?」
 ナルトはサクラの事を猫かわいがりしてる。懐いてくる後輩が可愛くて仕方が無いのだろう。妹みたいに思っているらしくサクラの前では少し年上ぶっている。
 時々可愛がりすぎてサクラにうっとうしがられる事もあるが。
「あ、サスケ先生もいた。あのね。ナルト、先生。明後日のお祭り一緒にいかない? っといきませんか」
 サスケに対して慌ててサクラは言い直す。
 サーッとサスケの顔色が変わった。そりゃもう普段から猫っかわいがわりしているサクラのお願いだ。ナルトは当然サスケとの約束を蹴るだろう事は眼に見えていた。
「いいってばよ!」
 キラキラと目を輝かせて返事をするナルトを見て、読みどおりの答えにサスケは心の中でがっくりと肩を落とした。
 でも、まあ、一緒に祭りにいけるからいいかと思いなおす。途中でナルトを連れ出してしまえばいいのだ。

 それぞれの思いを抱えたまま祭り当日。

 暢気なのはナルト一人だけだ。
 起き抜けに風呂にはいりシャツ一枚を羽織って今日は何を着るかベットに並べて思案している。色とりどりの服は買ったのだが着る機会が中々無いので吊るしたままになっていた。やっと着れると思うとどれを着ていこうか悩む。浴衣も持ってはいるのだが、丈があわなくなってしまっている。
 五年前に買ったものだからあわなくて当たり前だ。自分ではそんなに成長してなかったつもりだったが、大丈夫だろうとあわせてみてかなり成長した事に驚く。そういば忍服もすぐ着れなくて買い換えた事を思い出してそのくらい成長したかと納得したと同時に、新しいのを買えばよかったとがっかりする。
「んー白は辞めとくか。汚れるし。オレンジか青か」
 交互に姿見の前で合わせてみるが、どちらも捨てがたい。
 玄関チャイムに顔を上げる。
 台所の窓から銀色の髪が見えた。
 カカシか。
 そのままの姿でドアをあけると、カカシが目を丸くしてナルトを見つめた。
 みるみる真っ赤になっていく。
「お、どうしたってばよ?」
「! 何て格好してるんだ!」
 カカシは真っ赤になりながら片手で目を覆う。相変わらず口元を布で隠しているので顔が半分以上隠れてしまった。もう片方はナルトを見たままだ。荷物を持ってるため隠せないのか、わざと隠さないのか。
「風呂から上がったばっかりなんだってばよ。どうぞ」
 動揺したカカシは形ばかりの挨拶をしてあがりこむ。
 テーブルの椅子をすすめるとナルトは冷蔵庫から牛乳を取り出して消費期限をさりげなく確認した。
 大丈夫なのが判ってグラスに注ぐと差し出す。
「何時も遅刻するから迎えに来てやった」
「お、それはありがとうだってばよ」
 軽く返事されてしまう。どうやら洋服選びに夢中で、カカシの言葉を右から左へと素通りさせているようだ。そんなナルトの様子をそっぽを向きながらもちらりちらりと伺う。年頃で好きな人のしどけない姿を気にならない男なぞほぼいないだろう。
「あ、なあ。カカシはどれがいいと思う?」
 身体に服を当てながら振り返るとカカシはぱっと目を逸らす。
「別に堂々と見ればいいのに。お年頃で興味あるんだろ?」
「! 馬鹿!」
 ナルトが意地悪く笑って言ってやればカカシが物凄く慌てている。その姿が可愛くてナルトは笑いを噛み殺した。
「任務で慣れてるから見られても平気だってばよ」
 任務で慣れているせいもあったが、カカシを男性とし全然意識して無い事は秘密だ。
「任務?」
 しまった!
 暗部の事をつい口にしてしまった。
「カカシたちと一緒になる前だってば。俺ってばほら、お色気の術とか使ってたから」
「ああ」
 苦し紛れに出した理由にカカシは納得した。お色気の術はカカシも聞いたことがあるし、サスケ班に入るまでは色々な班と組ませられて単独行動が多かったとも聞いていたからだ。渡り歩くナルトを落ちこぼれで各班に拒否されていたからとカカシは受け取ったのだが、実際にはサスケ班に入るまで暗部の任務しかこなしていなかった。三代目の気まぐれのような(実際そうらしいが)配置にナルトは面食らった。カモフラージュだと笑っていっていたが、ただ単に面白がってるだけだろう。
「浴衣は?」
 広げられた服の中に浴衣が無かったのを見て取りカカシがたずねる。
「浴衣? あー丈があってなくて駄目だった」
「丁度良かった」
 カカシは片手に持っていた風呂敷をベットの上にひろげた。中から紺色の生地が出てくる。
「母が着ていたものなんだが、お前にどうかと思って。背丈も同じぐらいだったから」
 広げてナルトに押し付ける。
 受け取るとナルトはシャツを着たまま羽織った。紺染めで桔梗が白く染め抜いている。生地もしっかりしてる。見るからにいいものであるのが判る。
「長い?」
 カカシが声をかける。
「ああ、いや。ほら、ぴったりだってばよ」
 軽く前をあわせて持ち上げ裾をあわせる。
 さらさらと着心地がよい。
「帯とかも持ってきた」
 帯も立派なものだ。汚さないかなとナルトは不安になった。焼きそばイカ焼きと絶対浴衣にタレを付けそうな食べ物ばかり脳裏に浮かぶ。
 でも浴衣があればやはり浴衣で行きたい。祭りには浴衣。そんな図式が出来上がっている。
「うーん。借りるってばよ。やっぱ祭りは浴衣だよな」
 よっぽどナルトに浴衣を着て欲しいのだろう。カカシの目がキラキラと輝いた。本当に表情豊かな目だなとナルトは改めて思う。そこが可愛いなあとナルトは微笑んだ。
 背伸びしてる姿が子供っぽいと気がつくのはもっと先なのだろう。
「カカシは浴衣着ないってば?」
「このままで行く」
 ナルトがシャツを脱ぎだすと慌ててカカシは後ろを向いた。浴衣用の肌着を出す時に蒼い浴衣が目に付いた。昔ナルトが男の子として過ごしていた時に着た浴衣だ。背丈もカカシと同じくらいだ。
 女子として成長すると不都合があったため、三代目がナルトの身を守るべく男性として育てたのだ。あの頃はそのくらいやばい状況だったのだなあと、浴衣を見ながらしみじみ思う。今では大分里に貢献しているのが認められて里の人の態度も柔らかくなった。第一、里で一番強くなったので負ける気がしない。十二歳になった日ナルトは女性である事を公表したのだ。
 思い出深い浴衣を手にカカシの方をふりかえる。
「カカシ。カカシ」
「なに……!」
 よばれて振り返ってカカシは真っ赤になった。さっきシャツを脱いだので当然ナルトの姿はショーツ一枚だけのあられもない姿だ。
「ほらこれこれ」
 目を白黒させ口をぱくぱくと動かしてるカカシにお構い無しにナルトがひざまづいてカカシに浴衣を羽織らせる。
「おーぴったり! 帯と下駄もどっかにあったはずだってば」
 再び箪笥の方に身を捻る。
「その前に何か着ろよ!」
 耐え切れずカカシが怒鳴った。
「ま、いいじゃん。カカシしかいないし」
 ひらひらと手を振ってナルトが返事をする。
 その言葉を聞くとカカシは静かになった。顔を見るとむっとしている。男扱いされて無いのに傷ついたのだろう。気がつかないフリをしてチェストの中を探す。
「あったあった」
 一揃い出して振り返ると、まだ機嫌が悪いカカシがいる。失言だったかなとナルトは軽く頬をかいた。
「……男だぞ俺」
 ぼそぼそとカカシが抗議した。
「判ってるって」
「判ってない!」
 突然カカシが服を脱ぎだした。その仕草にナルトがドキリとする。ひょっとして襲われちゃう?! とか面白がってしまったが、まずカカシなのでそれは無いだろうと思いなおす。男である事を証明すべく裸でも見せられるのかなと思った。
「カカシ、脱がなくてもお前が男なの判るから……」
「浴衣に着替えるだけだ! 馬鹿!」
 怒りながらカカシは背中を見せて着替える。カカシの態度に苦笑を漏らしてナルトも着替え始めた。
「言っとくけどな、俺はかっこよくなるからな! つ、唾付けとくなら今のうちだ!」
 その言葉にナルトは盛大に噴出した。自分でかっこよくなると言うカカシが物凄く子供っぽくて可愛かったし、カカシらしいなあと思っておかしくなってしまたのだ。
「はいはい。わかったってばよ」
 また機嫌を損ねてしまうなとは思ったが笑いが止まらない。
「馬鹿にしてるだろ!」
「してねえってば」
 ナルトは手早く着替えを終わらせカカシを見れば帯で戸惑っている。後ろから見た限り合わせも逆のようだ。
「カカシ、逆」
「え?」
 くるりとカカシを向かせるとやっぱり合わせが逆だ。浴衣に口布という姿が妙に愛らしい。
「これは死んだ人。ほらかしてみろってば」
 大人しく帯を解かれてる。裾線をあわせようと持ち上げた時にナルトはちょっと意地悪がしたくなった。
 襟を持ったまま胸元に唇を寄せて強く吸い付く。
「え? いっ!」
 唇を離すと赤紫の跡が出来た。
「唾つけたってばよ」
 ニヤリと笑って見上げると、真っ赤になってナルトを見下ろしている。
 か、かわいい。
 言ったら怒られそうだったので、ナルトはにっこりと微笑んで浴衣の着付けを再開した。ちょっと意地悪すぎたいかなとナルトは心の中で舌を出す。

 祭りに自然と手を繋いで行く事になったが、サクラの事を思い出してナルトは手を離そうとした。
 恨まれては適わない。怒りまくるサクラも可愛いだろうなと思いつつも、嫌われる事はやらないに越した事はない。
「……行くのやめよう」
「へ?」
 離そうとしたナルトの手をぎゅっと掴んでカカシが真剣な眼差しで見つめる。
 これから二人駆け落ちでもしようと言う意気込みなので少しナルトは引いた。カカシが真剣でもナルトはそんな気など持って無いし、カカシに嫌われるよりはサクラに嫌われる方がずっと痛い。
「いや、だって。サクラちゃんとか心配するってば」
「どうせ、俺たちがいなくても楽しくやる」
 そんな訳はない。サクラはカカシが参加しないと意味がないのだ。イノもそうだろう。
「駄目。集合場所行くってばよ」
 引きずるように歩き出そうとすれば、カカシが動くまいと足を踏ん張る。
 はたから見ると駄々をこねる子供を親が無理矢理引いてるようだ。
 一メートルも引きずると流石にナルトが切れた。
「何処のお子様だってば?!」
「子供のわがままくらい聞けよ!」
 ナルトの言葉にむっとしながらも開き直ったのかそう怒鳴り返す。
 そこから何時もの、今日はナルトも言い返しての怒鳴りあいを路上で繰り広げ、心配して迎えに来る途中のサクラがくるまでいい見世物になっていた。
 合流してからも二人の機嫌は直らず、カカシはイノとサクラに挟まれ、チョウジとシカマルは我関せずとばかりに屋台を冷やかし、サスケは怒ってるナルトの隣にため息をついて一緒に歩いていた。
「最悪だな。カカシとの相性は」
「最悪だってば!」
 大人の表情でサスケは静かに微笑む。
 心の中ではどうやって、この集団からナルトとはぐれようか画策しているのだが。
「腹が空いてるから怒りっぽいんじゃないか?」
 屋台の一軒を指差すとキラキラとナルトの目が輝いて振り返った。
「おごりおごり?」
「ああ」
「やったー! サスケ大好き!」
 喜びを抑え切れなくて抱きつく。カカシが振り返って睨みつけ、そのまますたすたとお社の方に向かって歩いて行く。イノとサクラはカカシに引っ付きながらも少しだけ残念そうに屋台を見た。
「あらら。少しは女の子に気をつかえっての」
「そんな考えないだろ。ほら、焼きそば。他は?」
 何時の間にか買ってきた焼きそばを受け取りながらナルトは嬉しそうに叫んだ。
「たこ焼き!」
 自然にばらばらになり気がつくとサスケとナルトだけになっている。サスケに買ってもらった食べ物をぶら下げて幸せそうに歩いていたナルトも、皆とはぐれたことに気がついてきょろきょろとあたりを見回す。
「あれ?」
「はぐれたみたいだな」
 サスケも一応探す振りをしてあたりを見回した。
 人が社の方に向かって移動するのが見えるだけだ。
「まあ、それぞれ楽しんで帰るだろ」
「そっか」
 ナルトの肩に手を回そうとするがタイミングが取れず先程からサスケの手は怪しく宙を舞っている。一気に行けばいいものを。いい大人が情け無い。
「そういえば今日花火やるんだよな?」
 気がついたように見上げてくるのでまたしてもタイミングを失い、諦めたようにサスケは袂に手を入れた。
「ああ。たしか八時から」
「すっげー楽しみ!」
 その時ナルトが人にぶつかってよろけたのでサスケはかばうように肩を抱く。女性特有の柔らかさを腕に感じて少し頬を染める。ぶつかった者を睨みつつも感謝する。
「大丈夫か?」
 言いつつも目的を達成できて物凄く嬉しそうだ。
「危なかったってばよ。あ、あああー!」
 手に持ったイカ焼きがべったりと浴衣についてる。
「うわ、これ借り物なのに!」
「こっちに」
 サスケはわき道にそれると石垣にナルトを座らせた。
「タオル濡らしてくるから待ってろ」
 サスケは袂に入れていたタオルを取り出して水がありそうな方向に走って行った。取り残されたナルトは巾着からハンカチを取り出すと汚れに当てたが、イカ焼きのタレが汚く広がっていくので諦めてサスケの帰りを待つことにした。
 とりあえず憎き汚れの原因のイカ焼きを食べてしまう。
 サスケは中々戻ってこない。
 食べ物も大方食べつくした。
 暇になって下駄を揺らしながら人を見ていると目の前に三人ほど人が立った。誰だろうと顔を上げると見知らぬ男達がニヤニヤと笑って見下ろしている。
「彼氏とはぐれた?」
「はぐれてねえ。待ってるだけだってば」
 ナンパかとヒラヒラと手を振って追い払おうとしたが、手を掴まれてしまう。
「さっきから見てたけど、彼氏帰ってこないじゃん」
 意外としつこい。最近の輩は断られるとあっさりひいて次を探すものが多いのだが、久々にしつこいのがきたなあと眉をしかめて手を払う。
 いざとなれば路地裏にでも連れ込んでボコればいいだろう。ナルトは不機嫌そうに男達を睨んで悪態をつこうと口を開きかけた。
 まるで映画のワンシーンのようだ。
 突然カカシが男の一人にとび蹴りをくらわして現れたのだ。
「人の連れに何やってんだ!」
 裾を乱して次々に男達に肘鉄と蹴りを繰り出し、反撃を与えないままのしてしまった。人がざわめいて野次馬が集まろうとしている前にカカシはナルトの手を引いて人ごみの中に入った。人にぶつかりそうになるとかばうようにカカシが手を引く。
 カッコイイ。
 ナルトはときめいてしまった。
 祭りから抜け出すとやっとカカシがとまる。
「まったく! 世話がやける!」
「ごめんってば」
 二人で手を繋いで歩くと遠くで花火の上がる音がした。
「花火」
「アカデミーの屋上から見える」
「え、でも夜間立ち入り禁止だってばよ?」
「お前は子供かよ」
 言いながらニコリと笑う。
 カカシの笑顔に胸の高鳴りがどんどん上がってくるのをナルトは感じた。
 まずい、かっこよい。
 塀を乗り越えてアカデミーの屋上まで外壁をジャンプして登る。花火が良く見えた。
「すげーってばよ!」
 祭り会場からそう離れてないので良く見える上に、人が誰も居ない。
「あ、そうだ。俺、謝らなくちゃならないんだってば」
 浴衣を汚した事を謝ろうと振り向いた瞬間、肩を下に引かれた。バランスを取るため腰を落とした瞬間カカシの顔が口布を引きおろしながら近づいて、唇が重なる。
 唇が押し付けられ、何処で覚えてきたのか半開きの口の中に舌を押し込んできた。短いキスを終えるとカカシは真っ赤な顔で俯いて口布を元に戻す。
「お、俺も唾つけたからな!」
 呆然としたナルトにそんな言葉を投げつけて顔を逸らす。
 さっきの仕返しなのだと気がついてナルトは微笑んだ。
「一生面倒見てやるから! 安心して下忍のままでいろ!」
 まだまだ成長途中で子供っぽいけどナルトの事を好きなのは本当のようだ。
 サクラに悪いなあと思いつつも、カカシの事が前とは違う好きになってる事に気がついて照れたようにナルトは微笑むのだった。
 
 おしまい


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まったりのがあちゃんの所で8万ジャストを踏んだのと、一周年イラストのお礼も込めて。
リクエストが「ツンデレ仔カカシ×ナルコ」だったのでうはうはして書かせてもらいました。
があちゃんの所では素敵な挿絵付きで見れるのです!
もうねー涎垂れそうなくらい仔カカチがカッコイイの!!!
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