ゆっくりね

ゆっくりね

「こっちだよ。ナルト」
 四代目が手を叩いてナルトを誘導するとよたよたとそちらの方に二、三歩あるいてとすんと尻餅をつく。
「良く出来ましたー!」
 ハートを飛ばしながら四代目がナルトを抱きしめる。ナルトは抱きしめてきた四代目の意図などお構い無しにマイペースに手を握ったり開いたりしている。
「先生。いいんですか?」
 カカシが不思議そうに聞いてくる。
「んー? 何が?」
「今日火影会議でしょ?」
「そうでしたー!」
 ナルトに頬を摺り寄せていた四代目は慌ててカカシにナルトを渡す。
「あの、今日は俺も今から任務でいないんですけど」
「あ! そうか! そうだったね! そうそう。お願いしてたんだった」
 火影の上着を羽織って育児用具を手早くまとめると、カカシの腕からナルトを受け取る。
「戻りはカカシの方が早かったんだよね? うちは家にあずけていくから、ナルト迎えに行ってね」
「判りました。いってらっしゃい」
「カカシも気をつけてね」
 と、カカシの頬に唇を落としてばたばたと出かけていく。挨拶なのだろうがいまだカカシは慣れない。誰にでもあの調子なので困ったものだとカカシはため息をついて、出かける準備をはじめた。

「お早うございます!」
 うちは家の玄関先で挨拶をすると、ミコトが出迎えてくれる。
「おはようございます」
「今日一日ナルトをお願いしますね」
「はい。ああ、ナーちゃんにそっくりね」
 ミコトとナルトの母、うずまきナルトはアカデミーの同級生で親友というか悪友である。性格も正反対なのに何故か気があっていた。
「ナーちゃん容態はどう?」
 そう案じると四代目は困ったような笑顔を浮かべた。あまり思わしくないのだが言ったものかどうか、判断につきかねていたのだ。
「あらあら。急がないとまずいんじゃないの?」
 ミコトが時間に気がつく。
「あ、そうだった。じゃあね。ナルト。いい子にしてるんだよ」
 ちょんちょんと頬をつつけばへにゃりと笑う。
「カカシが迎えにきますので。それまでよろしくお願いします」
 何度もぺこぺこお辞儀をして四代目は去っていった。
「さて」
 きらりとミコトの目が光る。
「ナルちゃん。お着替えしましょうね」
 抱き上げてにっこりと微笑む。玄関先にはイタチが犠牲者のサスケをおんぶして出てきた。可愛そうにふりふりのレースを施された紺のワンピースを着せられたサスケは母親を見ると愛らしく笑った。もし、物心がついていたら羞恥で怒り狂っていたかもしれない。
「ナルちゃん、来るって言うからおばちゃん赤いワンピース作っちゃった」
「お母さん。その子女の子なの?」
「そおうよー。こんなにナーちゃんにそっくりなんだもの絶対女の子よう」
「ならいいけど」
 何かを含めるようにイタチはぼそりと呟いた。
「なによう。いいじゃない。サスケも似合ってるんだから」
 母に逆らうと後から恐ろしい事をイタチは痛いほど知っているので何も言わないでいた。
 言われたサスケは嬉しそうに笑ってる。大きくなってこの事実を知ったらサスケは怒るだろうなーと思いつつも、それは面白そうだからいいかとイタチは思いなおした。
「ナルちゃんは肌が白いし髪が金色だから赤が似合うと思うのよねー。ほらー!」
 確かに似合っていた。
「ね、ね。可愛いわよねー」
 とイタチに同意を求める。イタチもあまりのナルトのかわいらしさにこくりとうなずいた。
「お嫁さんにしたいな」
「あらいいわねー! 女の子ほしかったのよ!」
 激しい勘違いを親子は繰り広げていた。その夢がぶち壊されるのはそう遠い時間でもない。
 
「こんにちわー!」
 夕方にカカシがうちは家の玄関先で挨拶すると、ミコトが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。お疲れ様」
 腕に抱かれたナルトを見てぎょっとする。朝は普通の格好だったのに、女の子の格好をしてるのだ。しかも頭も結わえられてる。
「あ、あの?」
「やーね。ほら、可愛い子見るとね。着せ替えしたくなるじゃない?」
「あの、ナルト男の子なんですが」
「この年頃なんか男も女も一緒よう!」
 けらけらと笑われてカカシは押されるように、「はあ」と返事を返した。
 刺すような視線に気がつく。
 ミコトの後ろからイタチがカカシを睨んで顔を半分出していた。
(写輪眼!)
 何か恨まれるような事をした覚えのないカカシは、訳がわからず玄関先に立ちすくんでいる。
「ご飯食べていく?」
「あ、いえ。先生がお腹空かせて帰ってくるので」
「あら、偉いわ! ちょっと待ってて。煮物持って行きなさいよ!」
「有難うございます」
 イタチはじっと写輪眼でカカシを見ている。居心地悪い事この上ない。
「はいはい。お待たせ。コロッケも持って行って」
「ありがとうございます」
 礼を言ってナルトとオカズを受け取る。
「あの」
「なあに?」
「俺イタチに何かしましたか?」
 そう聞くとミコトは大笑いした。
「恋のライバルと思ってるのよ」
「お母さん!」
「はあ?!」
 イタチは顔を真っ赤にしてばたばたと奥へかけて行った。
「あの、ナルト男ですよ?」
「可愛いからいいじゃない。そりゃ、おばさんもナルちゃんが男だったのにはおどろいちゃったけど。ナーちゃんとこんなにそっくりなのに詐欺よねー!」
 詐欺でも何でもねええよと心の中で軽い突込みを入れながらカカシは顔で笑った。
 
「へー。この服はそういうわけなの」
 言いながら四代目はナルトを高く抱き上げた。ナルトが楽しそうに笑うので調子に乗って放り上げたら、カカシに怒られた。
「手作りだそうですよ」
言いながらカカシは食後のお茶を差出し、ナルトを受け取る。
「あはは。ミコトさん、相変わらず器用だなー!」
「相変わらずって事は前も何かあったんですか?」
 ナルトはカカシの膝の上でじっと座っている。ちょいちょいと手をいじると喜んで手を叩く。
「ほら涎掛けとか。学生の頃はうちの奥さんとおそろいの服とか良く作っていたねー。あと、うちの奥さんのウェディングドレスと内掛けと」
「まじですか?!」
「うん。器用でしょ?」
「ですね」
 うんうんとうなずく。
「そうかー。男か女か言ってなかったからなあ」
 いや、絶対そー言うの関係ないし。カカシまたしても心の突っ込み。
「俺、ナルトの事、風呂に入れますね」
「あ、うん。じゃあ、ちょっと仕事やるね。俺」
「無理しないでくださいよ」
「ありがとね」
 ナルトとカカシの頬にキスをして書斎に入る。
「ナルト、楽しかった?」
 そう聞いてもナルトはへにゃりと笑うだけだった。
 木の葉は平和に深けていく。
 
終わり

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