哂う者
哂う者
この季節になるとナルトは胸が痛む。自分のせいではないとは判っているが原因が自分の腹の中にいると知ってからは、原因の一環に自分がいるのだろうと思うと真っ暗闇の中にポツンと自分ひとりが立っているような気がしてならない。
焦って周りを見まわすと、人々の冷たい視線が闇の中から猫の目のようにぴかぴか光りながらナルトを睨んでる。逃げようとしてもどちらに逃げていいのかわからず、ぐるぐるとあたりを見回せばぼんやりと光る人影が見えて夢中でそちらに走っていく。
ぎゅっと抱きつくと何度も頭を撫でてくれる。
「大丈夫じゃ。のう。ナルト」
三代目火影は優しく笑みながらナルトを抱きしめる。
でも、
その三代目火影ももういない。
そのかわり暖かい手は増えている。
「あー、めんどくせえ。明日朝からかあちゃんと墓参りだよ」
物思いに沈んでいたナルトはシカマルの声にはっと顔を上げた。チョウジがまだ一つ目のスナック菓子の袋を明け切って無いのを見て取ると、物思いにふけっていたのはわずかの間のようだ。
慌てて顔を作ると何がだよ? と、ばかり目を細めてシカマルを覗き込む。
「彼岸だよ。ひーがーん」
ああと、ナルトはうなずいた。
木の葉の里では彼岸を十月十日に定めている。本当なら十月十日に慰霊祭を行うはずなのだが、秋のお彼岸と日がそう離れてないからという理由でずれたらしい。表向きは。
本当は、十月十日に里人からナルトを守るため三代目火影が彼岸をずらしたのだ。
だから十月十日前後、ナルトは火影の家に呼ばれる。呼ばれるというか拉致監禁に近い。暗部が来てナルトを火影の家に連れて行くのだ。何時もは朝からだが、今年は火影交代の事もあったのか、午後から迎えをよこす、と五代目火影から連絡があった。
「おはぎ、沢山食べれるね」
チョウジが菓子をほおばりながら答えれば、シカマルは、おはぎだけならまだいいぜと首を、こきり、と鳴らす。
「掃除とかあんだろうが」
「煮しめも旨いよね」
ちっとも会話になってない。
久しぶりにシカマルとチョウジと休みが重なり、郊外でぶらぶらと遊んでいたのだが、もうそろそろ家に戻らないと暗部が迎えに来てしまう。
「いいよな。ナルトは」
「なんだってば?」
心底羨ましそうにため息をついて、シカマルがナルトを見てる。何のことかわからず小首を傾げるとシカマルは盛大にため息をついた。
「墓参り行かなくてさ。あー。俺も一日ごろごろしてえ」
シカマルはうらやましそうにまたため息を漏らしながら空を見上げる。その言葉に胸が締め付けられた。お参りする家族の墓もないのだが、どうしても九尾の事を思い、そうすると自分のせいの様な気がしてぎゅっと心臓を誰かに掴まれている気分がするのだ。
もしシカマルがナルトの位置に立てるなら果たして羨ましいと同じことを口にするかどうか。
「ごろごろなんて、何時もしてるじゃない」
シカマルの言葉にチョウジがボケたような突込みを入れる。
その答えにぎゅうぎゅうに締め付けられていたものが消えて、ナルトはつい大笑いした。イライラする事もあるが、チョウジには何時も救われる。
シカマルも別にお前は両親がいないから墓参りしなくていいよなという意味で言ったのではない。忍者における自立は早いものはまだ十代にならないうちから一人立ちしているものもいる。だから両親と一緒に住んでいるという事が一人前としては恥ずかしいとされているのだ。
「いや、でも、俺もあれだってば。火影の慰霊祭に出なきゃなんねーし」
「めんどくせえなあ。それ」
母ちゃんと一緒のがまだましか。と、シカマルは相変わらず空を見上げながら呟いた。チョウジは二袋目に突入している。
彼岸をずらしたといっても、九尾の事件はあまりにも遠くなく、大きな事件だったので忘れて彼岸で祖先の霊と一緒に祭れといわれても納得出来ないはずだ。しかし、慰霊祭をすればその場所でうっかりナルトと九尾の事を口走ってしまう大人もいるだろう。訳が判っていない大人たちの仕打ちは酷いものだ。いくらナルトと九尾が別物だと説明しても、憎しみは失われず、はけ口を求め器のナルトを憎む。
馬鹿な大人たちだと、何時だったか三代目が呟いた事があるが、蔑みの目の中に恐怖をナルトは見ていたので、馬鹿とは思えなかった。九尾が復活したら。復活する前に殺せば良い。しかし、火影様が禁止している。
目の奥にそんな言葉が見え隠れするのを見て、自分が里人の恐怖の対象なのだと思うと切なくなった。ナルトにとっては蔑む里人の方が恐怖の対象なのに。
慰霊祭は行うが代表者で行う。
そう火影が勅命すると、里人はしぶしぶながらも納得した。
わけの判らなかった頃はぎゃあぎゃあ騒いで三代目を苦笑させたものだが、成長するにつれ死んで行った者達を供養しようと熱心に黙祷した。
訳を知ってからは出るのが辛くなった。
そこにいる大人たちは九尾を憎んではいるものの、ナルトを憎んではいなかったが、九尾の事を知ってしまうとどうも居心地が悪い。慰霊祭が終わると精進落としとナルトの誕生祝いをかねてささやかな宴が催されたが、それも辛くなっている。
「大人ばっかで緊張するってば」
大げさに胸を押さえるとシカマルとチョウジは馬鹿いってらーと大笑いした。
ナルトも笑ったが、心はスカスカだった。
寝返りを何度も打つが眠れず、ため息をついて起き上がる。
火影の家の柔らかい布団は寝心地が悪い。自分の家の固い布団が恋しい。
秋の虫が鳴いているのが聞こえ、庭でも散歩すれば少しは疲れて眠れるだろうかと、雨戸を開けて備え付けの下駄を履いて庭に下りる。
虫が煩い位ないてる。
かららん、ころろん。
ナルトの下駄の音が虫の声に混じる。
池のほとりにたたずんでる人影に気がついてナルトはぎょっとして立ち止まった。こんな真夜中に人がいるとは思わなかったからだ。
月明かりに浮かんだ姿は寝巻き姿の五代目火影だった。
「ばあちゃん」
ほっとして近づく。ツナデは顔だけナルトの方に向けると二ッと笑った。
「寝れないのかい?」
「布団がふかふかすぎてさ」
池には月が映っており、二人でぼんやり言葉なく水面を見ていた。
「綺麗なお月様だってばよ」
「だな。私とお前の髪の色に似てるな」
そう言うのでナルトはツナデを見るとツナデもナルトを見ていたので思わず笑う。
笑いながら二人とも水面に視線をもどした。
無い墓。噂さえあがらない両親の事。自分の事がさっぱりわからない。
ざわざわと木々をゆする風の音に耳を傾けながらナルトが呟く。
「俺って、誰?」
ツナデはチラリとナルトに視線をやる。
「うずまきナルトだろ?」
ナルトの聞きたい事は判っていたがツナデは答えない。ナルトもそれ以上聞かなかった。答えてくれないと判っていたから。しばしの沈黙。
「時が来れば教える。まだその時じゃない」
「うん」
抱きしめるように髪を撫でれば、ナルトもツナデを抱きしめる。甘い香りにナルトはそっと目を閉じた。
「誕生日、おめでとう」
その言葉にナルトは小さく礼を言う。
今日一番最初に聞く誕生日の祝いの言葉だった。
宗派はそれぞれ違うだろうが、木の葉の昔から伝わる先祖供養の儀式が行われる。
抹香を焚き献花がされ儀式主、この場合火影になるが、藁の火であたりを清める。
火影の挨拶と共に今日の外での儀式は終わりだ。火影邸に戻り「魂送り」と言われる儀式をしてから解散となる。解散しても結局は火影の家に精進落としの料理が用意されているのだからそこまでが儀式の一環といってもいい。
「ナルト」
見るとカカシがいる。火影邸で祝詞が終わり移動しようとしている時に声をかけられた。
「あれ? 先生。任務じゃなかったの?」
ナルトは少し驚いた。昨日から今日まで任務で国外に出てると聞いていたカカシが礼服をきっちり着込んで立っていたからだ。気のせいか少し目元あたりに疲れが見えて、大丈夫だろうかと心配してナルトはカカシの顔を覗き込む。
「ん。ちょっと早く終わっちゃったから」
そんなナルトに微笑みかけながらカカシは礼服のポケットに両手を突っ込んだ。笑顔が弱々しい。
「じゃあ、明けで休みじゃん」
寝てなよと、ナルトが言うと寝れなくてねとカカシが困ったように頭をかいた。
わざわざ出なくてもいいのにと、呆れてナルトが言うとカカシは困ったように笑う。
「ちょっとね。家の墓参りもしないといけないから。ついでに」
口ではそう言うが、他の明けで参加した者は忍服のまま参加している。礼服を着てきたという事は一旦家に帰ったか行く前に何処かに用意して着替えて来たのだ。着替なんかわずかな時間だろうと言うかもしれないが、やはり礼服に着替えて来るというのはナルトから見たらきちんと時間をとっているとみえる。
「解散でしょ?」
ざわつく室内をぐるりと見回しながらカカシが問う。
「うん」
ナルトはうなずくとカカシを見上げた。
「あのさ、先生、ナルトに一緒にお墓参り付き合ってほしいんだけどな」
先生疲れてるのかな? ナルトがそう思うくらいカカシは弱々しい笑みを浮かべた。連日ともいえる激務にしょうがないといえばしょうがないかと納得して大丈夫だろうかと小首をかしげてカカシを見れば、にこりとわらってナルトの頭を、大丈夫よと撫でた。
「あ、でも、俺、今日人前に……」
最後の方は口の中でもにょもにょ呟いて視線を外す。あまりこの時期外に出て良い思いをした事がない。前後がそんな風なのに、当日なんか人目に付くように歩いたらどうなる事だろうとナルトは眉を寄せた。
カカシはナルトの目線まで視線を下げ、やんわりと微笑む。
「隠れ墓だからね。誰も参る人がいないの。一人だと寂しくて」
隠れ墓とは木の葉特有の者で、任務ではなく自害した者や、里抜けをして打たれた者や、犯罪者など訳があって先祖の墓に入る事を許されなかった者の墓である。藪の中や、畑の隅にひっそりと葬られている。
カカシのさびしそうな顔にナルトは悲しくなり、ぎゅっと胸元を握り締めた。自分の悲しさをつかみ出せたらいいのだが生憎と悲しさや寂しさは目に見えるものではないのでそんな事をしてもどうにもならない。どうにもならないのだが、握った手が痛みを生み出して少しだけ感情がほころぶ。
「ばあちゃんに聞いてくる」
ツナデは取り巻きに囲まれていたがナルトが来ると、手で他を制してナルトの言葉を聴くべく中腰になった。
「まあ、カカシがいるから大丈夫だとは思うけど、気をつけるんだよ」
伝えるとくしゃりと頭を撫でられる。
「判ったってば」
手を振って別れる、柳の下で待っているカカシの元に走った。
「先生。いいって」
今日のカカシの笑顔はずっと寂しそうで、ナルトは胸が痛かった。
風が竹林を通り、ざわざわと葉を鳴らす。
持参した線香を手向けると煙がたなびいた。花を二つに割ってそれぞれの竹筒に生ける。カカシの隣でナルトも手を合わせる。
ただ石が置いてあるだけの粗末な墓。戒名も何も彫られてない。誰の墓なのか聞こうとしたのだが聞けなかった。
聞けば答えてくれるだろうが、聞いてカカシを悲しませたくなかい。隠れ墓にお参りするという事はカカシとなんらか繋がりの強い人なのだ。その人が何らかの不名誉な死を遂げたのだ。
長い時間カカシは手を合わせていた。目を開けるたびにまだカカシが手を合わせていたので慌ててナルトが目を閉じる。
カカシの動く気配にナルトが目を開けると、背中だけが見える。
「ね、ナルト。もう一箇所だけ付き合ってくれる?」
そう言いながらカカシはナルトの手を取る。繋がれたカカシの手は大きくて、自分の手が小さく感じてナルトは繋がれた手を見ていた。
「ん? あ、ごめん。嫌だった?」
「え? 嫌じゃない」
慌てて離れようとしているカカシの手を強く捕まえ引く。その行為にナルトは真っ赤になった。あまり自分からこういう、人を求めるという行為をした事がない。
「カカシ先生の手大きいなって」
赤い顔で俯きながら言うと、カカシが笑う。見上げると優しい目が見えた。
「大人だからね」
竹薮の中をザクザク歩く。日が差してないので草は生えていないが、腐葉土のふわふわした土は歩きにくい。
五分もすると立派な門が見えてきて、ナルトはふと、昔、三代目に話してもらった迷い家の話を思い出した。農婦が迷ってその屋敷に入るとご馳走が並べてあったという話だ。
ぎぃと小さな門を開けてカカシが中に入る。
「しばらく来てないから荒れちゃってるな」
玄関を開けながらカカシが陽気に呟く。どうぞと促されてナルトは中に踏み込んだ。
広い玄関。
右手と左手に部屋がある。カカシは右手の部屋の方に向かい引き戸を開けた。そのまま締め切った雨戸を開ける。
「先生、ここって」
どう言っていいのかわからずナルトが目をさまよわせる。
薄暗い室内は誇り臭く湿った匂いがしていた。
目を凝らして見ると時々手入れされてるのか、埃は積もったものの畳は腐ってはいない。
「ちょっと掃除手伝ってくれる?」
普段のナルトなら抗議の声を上げていただろうが、この家とさっきの墓とカカシがどういう関係があるのか興味深々でたまらない。
箒を数本渡されたので影分身で方々を分担して掃く。
カカシは居間をどこからか持ってきた雑巾で畳を乾拭きした。
「適当でいいよ」
「こんな広い家まじめに掃除したら、何日かかるんだってばよ」
やっと抗議するとカカシは笑った。
「まあ、玄関から見える範囲だけ。あとは人に頼むから」
「それ先にいってくれってばよ!」
見える範囲以上をナルトは掃き清めていた。
箒を集めると一斉に影分身が消える。
「ご苦労さん。おはぎ食べる?」
「え? 食べる食べる!」
掃除した居間の飯台の上にパック詰めのお萩とペットボトルのお茶が出されていた。
「足の裏真っ黒だって。服も汚れたし」
「帰りに温泉行こうか?」
うんざりとしたナルトの言い方にカカシが笑う。
改めてナルトは室内を見回した。
居間らしく大きな座卓が部屋の中央においてある。
止まってる柱時計、古ぼけた家具調のテレビ。その上にみやげ物の木彫りと一緒に写真立があった。親子で写っている写真。
「あれ?」
子供の方の顔にナルトは見覚えがあった。
両目が出ているけど、顔半分隠したマスク。その後ろに肩に手を置いて、面差しがそっくりな男。その男を見てナルトは誰に似てるか判った。
「カカシ先生じゃん!」
立ち上がって写真を手に取るとまじまじと見る。多分小さい方がカカシなのだろう。大きい方は。
「俺のお父さんだよ。はたけサクモって言うの」
振り返るとカカシが寂しそうに笑っていた。
小鳥の鳴き声が聞こえる。
「くもの巣」
そっとカカシの長い指がナルトの髪についたくもの巣を取り除く。一連の動作をナルトはじっと見ていた。ここに来てからカカシはどうもカカシらしくない。アンニュイというか昔を懐かしんでるようなそんな、さびしい背中の気がしてならない。
カカシに後ろから抱きしめられる。抱き方が優しくてナルトはくすぐったそうに身をよじった。
「先生の実家。生まれた家」
「先生。俺、汚れてるってばよ」
お互い汚れた服なので気にするも何もないのだが、やはりナルトとしては好きな人に抱きしめられていると思うと、汚れが気になってしかたがない。
「先生も汚れてるよ」
「掃除したからだってば! すげー埃とくもの巣だったし!」
ニシシと笑えば、カカシはそっと手をはずす。
「おはぎ食べようか」
任務上手を洗って食べる事なんて数えるくらいだったが、手の汚れが気になってナルトを外の井戸に連れていく。
井戸など見たこと無いナルトは興味津々と身を乗り出して井戸の中を覗き込んだ。
「うわー深いってばよー」
「落ちるなよ」
笑いながら釣瓶を落とし水をくみ上げる。
「すげー! テレビでしか見たことねーってば!」
と目をキラキラさせてナルトが見るので、やるか? と綱を渡すと重すぎて持ち上がらず踏ん張ったまま引き上げれない。
そっとその上から力を貸して釣瓶を引き上げる。くみ上げた水はほったらかしにしてた割には澄んでいる。
ざっとナルトの手に水を落とすと冷たいとはしゃぎながら水を受ける。
昔の自分と重なる。カカシの動きが止まった。
自分も父親に水を汲んでもらってこうやって、冷たいとはしゃいでいた事や、夏の暑い日にはスイカと一緒に盥に入っていたなとか。
目元を慌てて押さえる。
一瞬だったがナルトは見てた様で不思議そうな顔をしたてカカシを見た。その後きりりと顔を引き締めて、ちょいちょいとカカシを指で呼ぶ。
「おまえねえ。先生を指で呼ぶとは」
笑いながら叱ろうとして身体をかがめると、ナルトの手が頭を撫でてきた。
「大丈夫だってば。俺がいるってば」
言いながらぎゅっと首根っこにかじりついてくる。
「ナルト……」
そう呼んで抱く。小さな身体は温かく首筋にかかる息は生きてる事を証明してる。
「ね、ナルトちゅーしていい?」
「ん。いいってば」
埃だらけの髪に、額に、頬に唇を落とし、最後にナルトの唇に唇を落とした。そのまま抱き上げてバードキスを何度も繰り返す。
音を立てて何度も。
ナルトもカカシの頬や髪や目にバードキスの合間にキスしてくれる。
「足りてる?」
そう小首をかしげて聞き返してくるので、カカシは笑んだ。
「足りない」
ナルトの両手がカカシの頬を包みナルトにしては少しだけ深いキスをくれる。
「もっと頂戴」
「駄目だってばよ! 俺、これ以上のキスしらねえってば!」
「じゃあ、少し口あけてキスして」
「ん」
言われたとおりキスしてくる。
カカシは自分の舌をナルトの口内に入れた。びくりとナルトが震えて離れようとしたが、そのまま留まった。舐めるように口内を愛撫する。ナルトはどうしていいか判らず、はじめは、絡めてくる舌から逃げようとしていたが、カカシがナルトの舌を求めているのだと判るとカカシに舌を差し出した。
「ん、ふ……」
鼻から抜けるようにナルトの声が漏れる。舌を吸い上げて音を出し唇を吸い上げて音を出し、カカシは唇を離した。離れていくカカシに気がついてナルトの蒼い瞳がゆっくりと開かれて少しだけ伏せられる。
「ナルトはずっと側にいてね」
そうカカシが呟けばこっくりとナルトが頷く。もう一度軽いキスをする。
ぎゅっとナルトはカカシを抱きしめる。
「俺は何処にもいかねえってば。だから先生は何処かに行っても大丈夫」
「え?」
その台詞に驚くと、ナルトが身体を離した。その顔は慈愛に満ちた笑顔が浮かんでいる。
「だって、俺、先生縛り付けたくねえもん。俺のせいで先生の自由が奪われたらやだ。俺、先生には何時も笑って欲しいの。幸せでいてほしいの。あ、愛してるから」
最後の単語を言うとナルトは顔を真っ赤にして俯く。
「じゃあ、言ってよ。『先生、何処にも行かないで』って」
「だって」
「ナルトは先生要らないんだ」
「違うってば!」
カカシはナルトにわがままを言ってる自分を笑った。
少しだけ、ナルトと同い年で同じ時間を共有できたらと思うこともある。でも子供の自分をナルトは好いてくれるだろうかと思うと哂いが口の端に浮かぶ。
あの時の自分より今の自分がカカシは好きだ。子供相手に意地悪な我侭を言う自分が好きだ。
「せ、先生が好きだから。ど、どこも行っちゃ、や……だ」
「良く言えました。合格」
そういってまたキスをすれば子供は意地悪だとふてくされる。
「怒るなよ。いいもの見せてあげるからさ」
「どーせ、変なものだってばよ!」
完全に拗ねてしまったらしく、おろして! と言うとすとんとカカシの腕から飛び降りる。
「もー先生なんかしらねぇ! どっかいっちゃえ!」
「あれ? あれあれあれ。本気で怒っちゃった? ナールト」
「しんねえってば!」
言いつつナルトは居間の方に戻ってる。少し意地悪しすぎたと鼻の横を掻きながらカカシは手を口に当てた。
「ナールト」
返事が無い。
「ねえ、ここ俺の実家だよ」
「だからなんだってば!」
「小さい時に住んでた家だよ。写真とかあるかもよー?」
そういうと、入り口から顔半分怒った顔を出しながらナルトがじっとカカシを見ている。
「ねえ、アルバム探してくれる? 見つかったら一緒に見ようよ」
「本と? 本とうにあるんだってば?」
「あるよ。赤い表紙の。居間の戸棚にあるはずだからさ、探してみなよ」
「分かったってば!」
それを聞くとナルトはぱっと顔を輝かせて靴を脱ぐのももどかしく家に上がり戸棚を開いて赤い表紙のアルバムを探す。
カカシは探してるナルトの肩口に顔を寄せた。
「あったか?」
「んー。あ、あの奥の奴?」
「そ」
埃がかぶって、色も褪せて赤というよりはオレンジの表紙になっていた。あの当時大きいと思ったアルバムは今見ると小さくて、ぱらりと開いたページの写真は思い出よりもずいぶん褪せていた。
「先生、一緒に見るってばよ!」
ぶーぶーと抗議の声を上げるナルトを片手で抱いてすとんと腰を下ろす。
「ん、一緒に見ようね」
膝の上にナルトを乗せてページをめくる。少し生意気な目つきをしてカメラを睨みつけてるナルトと同い年の自分がいた。
おわり
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へのへのもへじのうず様原案協力です。
話しているうちにこーいうのはどうだろうかという話になり、おいしーねたを振ってくれたので私がノベライズしてみました。
ものっそい、イメージ崩してしまったような悪寒(;´Д`)
うずさまのみフリーですv
20051101
おにはち
