夜に鳴く。

月に想う。カカシ編

 雨。
 ふりはじめた雨に空を見上げる。どんよりと雨雲が垂れ込めていて本降りになりそうだ。
 身体で雨を感じているのに、手のひらを差し出す。
 水の匂いは切ない気持ちにさせる。
 泳ぐあの子を思い出す。
 真っ直ぐに向けられたあの蒼い眼。
 思い出して、ぎゅっと心臓が鷲掴みにされた。
 あの眼が俺を捕らえる。
 瞳が逸らせない。飲み込まれそうになって、慌てて逃げてしまう。蒼さではなく、その意思の強さに魅せられる。
 あの子の眼から逃げられない。
 雨はちっとも手のひらにたまらず、触れた部分を濡らすだけ濡らして、流れてしまう。出来るならこの思いも、あの子の言葉も一緒に流して欲しいと願う。
 好きだと言われた瞬間、満足感と同時に痛みが心を支配する。痛みは色んな物が混じって形成されてる。それなのに言葉で表せてしまう。
 恐れ。不安。
 自分より年下に本気で恋をしてしまった事とか、男同士だとか、色々、理由は色々あるのだけど、本当の痛みは認めちゃいけない、思っちゃいけない事だから、ずっと考えないようにしていた。口にするだけで俺は自分自身が許せない。
 九尾への憎しみは消えないのに、その器のナルトを好きなこと。
 好きとかそういう言葉じゃ表現できない。愛してるとも違う。愛しくて狂おしくて抱きしめたいと想うのに、九尾の事が憎くて堪らない。
 多分、ナルトを好きなことは、ナルトが俺を想う感情と一緒。
 その事で俺がナルトを不幸にしてしまうかも知れないと想うと、胸が痛くなる。
 何時かは俺の心を気づかれてしまう。その時ナルトがどんなに傷つくのか、胸が痛くなる。
 それなのに、ナルトに本気で恋をしてる。説明の付かない事態。
 ナルトを想うと全てがどうでもいい事柄になってくる。そばにいるだけで、心が満足する。
 それなのに側にいたら傷つけてしまうしまうだろうという不安と恐れ。一番近くにいたいはずなのに一番近寄っては行けない事実。
 先程より雨脚が強くなって来た。
 雨をぼんやりと見つめながら、ナルトを思い出していた。
 
 秋の気配は一気に訪れて、朝晩が冷え込む。それでも俺の日課は変わることなく、何時もの時間に目覚めてオビトの元に行く。
 何時もの事。
 変わらない事。
 いい歳になると変わるのが途端に怖くなる。
 変わってしまったら、歯車とか、パズルのピースだとかそんな感じの毎日を作ってるものが狂ってしまって、ずれてしまってひょっとしたら何か大きな不幸が襲ってくるのじゃないかとか。ばかげた事に一々不安になる。
「……」
 あまりにも後ろ向きな考えにあきれて頭をかいた。
 不安なのは本当。
 仕事柄もあるからジンクスなんかもかついでしまう。
 気の持ちようだとは思うんだけど。
 そこまで考えて、やっぱり最後はナルトの事に行き着く。
 恋愛とか慣れてるつもりなのに、今までと勝手が違うようで、怖くて手が震えたり、時折あいつの周りに嫉妬したりと、感情の起伏が激しい。そして、側にいて怖い。痛い。
 受け入れることは出来ないというのに。
 痛みは見えない分じくじくと膿んでいく。
 痛みを我慢して受け入れてしまえば楽なのに、その痛みに触れるのが怖くて、その一歩を踏み込む勇気がなくて。
 気がついたら右手をじっと見ているた。
 昨日雨を受けた手、何時もナルトを撫でる手。
 大人は嫌だね。
 勇気も度胸もどっかに消えてしまってる。
 俺が、全て捨てたらナルトを受け入れる事が出来るんだろうか? 憎しみとか過去とか年齢とか性別とか。全て捨ててしまえばいいんだろうか。俺にはその勇気があるんだろうか?

 集合場所に行くとナルトとサクラが何か話していた。楽しいのか始終笑顔のナルトの顔を見てむっとする。俺以外と話すのがそんなに楽しいの? 身勝手な嫉妬に恥ずかしくなった。
 空は俺の心を代弁するかのように、どんよりと曇って今にも降り出しそうだ。
「やあ、お待たせ。今日は」
「はい! 嘘!」
 言い終わる前にサクラとナルトから突込みが入って二人の仲の良さを再認識してイラつく。元からナルトはサクラを大好きだと公言していたし、サクラも口ではなんだかんだ言いながら、ナルトと仲がいい。
「今日の任務はなんだ?」
 むすっとしてサスケが聞いてくる、これ幸いと俺はサスケに逃げた。二人に触りたくない。これ以上痛くなりたくない。
「ん? 今日はね。栗拾い。籠三つ分ね」
 露骨に視線そらしたのばれたかな。気づかれないようにナルトを伺うと、無表情で立っていた。
 表情豊かなナルトには珍しい顔だ。
「じゃ、夕方来るから」
「先生! 何処行くんですか!」
「俺も任務あるんだよ」
 何時もならナルトが食って掛かってくるのに、今日はサクラがその役。ナルトは籠を背負うと何も言わないで林の中に入っていった。
 無視された。
 まあ、当然の結果だけど、さすがに無視はきつい。
「夕方に来るから」
 二人の返事しか聞こえない。ナルトはもう木立の中に消えていた。
 夕方にはニコニコ笑っていた。
 でも、俺を見ない。
「サスケくん一緒に」
「悪い。また修行見てもらってもいいか?」
 サクラの言葉をさえぎってサスケは俺に声をかけてくる。この頃サスケはナルトの成長に焦りを感じているのがわかる。
「いいぞ。ナルトお前もどうだ?」
 そう声をかければ、困ったような笑顔を見せる。
「前にエロ仙人に言われた修行する」
 そう言ってふいと顔を背ける。
 そのまま踵を返して木立の中に消えた。
 どんよりとした空から水滴が耐え切れずに落ちてきた。
 
「おまえはうずまきの何処が好きなんだ?」
 あの日から空がぐずついてる。雨は降ったりやんだりとせわしない。
 ざわつく人生色々でアスマが煙草片手に世間話でもするように、世間話なんだろうが、聞いてきたので窓の外からアスマに視線を移した。
 相変わらずすっとぼけた男で、暢気に煙でワッカなんかを作ってる。
「俺、お前に言ったっけ?」
 そう言うと煙草を咥えて静かに哂う。
「何年の付き合いよ。俺達」
 そういう会話が成り立つくらいの付き合いかと、改めて年月の長さを知る。
 ソファーの背もたれに背中を預けて指を折って数える。片手では足りない時間。
「長いね」
「長いさ。うずまきよりもな」
「でも、落ちるのは一瞬だよ。映画みたいな台詞言うけどさ、本当に落ちるね」
「そりゃ、矢も当たれば飛んでる鳥も落ちるさ」
「嫌な例えするね」
 数えていた指から視線を向けると、アスマは面白そうに笑っていた。
「人間、人の幸福より、不幸のほうが楽しいもんだ」
「嫌な奴」
 拗ねてそっぽ向くと、ソファーが軋んだ。断りも無しにアスマが隣に座る。
「子供かよ。お前は」
 あきれた声が聞こえた。ナルト絡みだと何時もみたいにニコニコしてられないんだよ。どっか崖にでも追い詰められた感じがして、イライラして堪らない。自分の気持ちがごしゃごしゃしていて気分が悪い。
「ちっともさっぱり全然判らなくてイライラする」
「抜いとけ抜いとけ」
「あのさ」
 下ネタに思わず抗議を入れようとして、ナルトの告白を思い出した。
 俺を想いながらマスターベーションをするという。
 思い出して顔に血が昇った。
 とっさに頭ごと顔を覆ってしまう。
「恥ずかしい、恋愛してますこと」
 俺に聞こえるように煙を吐き出す。
「うるさい」
 人生色々は騒がしかった。
 外に。
 そんな感じで顎をしゃくるので、頷いてアスマの後を歩く。何人か声をかけてきたけど、笑って片手を挙げて断った。
「おモテになりますな」
「まあね」
 階段をのぼって屋上に出ると、天気が悪いせいか風が強かった。
 アスマの煙草の煙が風の向きに流れていく。
「あー明日も雨だなこりゃ」
 言いながら豪快にアスマが笑う。しつらえたベンチは風で乾いていたのでそこに腰を下ろした。
 幾分小さい。膝に肘を乗せてどんよりと曇っている夜空を見上げる。
「好きなんだけどさ」
 話し始めるとあれもこれも聞いて欲しくなって口から言葉が流れ出る。できれば解決してほしい。
「でも、周りの連中と一緒なんだなって思ったら、見えてきた。あの子の立場。その場所に立ってみたらさ、痛いんだよ。大人の俺でも。物凄く」
 あんな場所にわけも分からず立っていたナルト。判ってしまった今もやっぱりたち続けている。
「同情?」
「も、あったかな。でもさ、強さに魅かれた」
「ふうん」
「でもさ、九尾の事は憎いんだよ」
 アスマは携帯の灰皿を取り出すとぎゅっとねじ込んだ。
「いいんじゃね? 別に好きなら」
「軽く答えないでよ!」
「別に、お前男と付き合ってたことあるだろ?」
「年下だよ! 14も!」
「別に歳なんかいいだろよ。好きなら。お前さ、何でそうやってストッパかけてんの? 俺はそっちのがわかんねよ。好きだったら、箪笥でも猫でもいいだろ?」
「いや、俺、ファニチャーフェチでは」
 答えながら図星さされてずきりとした。あんまり図星指されてふざけて答え返したけど。
「お前、自分自身が怖いんだろ? 本気に恋愛したことないから」
 ちらりと向けられたアスマの視線とぶつかって俯く。
「何、そんなに怖がってるんだよ。相手の想いが判らない事か? 振られるのが怖いのか? なあ?」
 たたみかけるように次々と言葉が飛び出してきて、俺が言葉に詰まる。言葉が出ない。
「……告白は向こうからされた」
「へえ! すげえな! まじかよ。おいおい」
 座りなおして俺の顔を覗き込むアスマ。
「……お前の事そういう目で見たこと無いって断った」
「はあ?! 何で?」
 物凄く驚いたようなあきれたような声にいたたまれなくなる。
「信じられん。馬鹿だろ。お前」
「だってさ、アスマ怖いんだよ。あの子が俺のせいで傷つくのが怖いんだよ」
 痰でも吐きそうな声を上げて首を振るアスマ。
「くそ馬鹿」
 物凄い怒ってる。イライラして煙草に火をつけようとして失敗してる。
「おまえさー。ほんと馬鹿だとつくづく思ったね。俺は」
 アスマとこんな話をするのは何年ぶりだろう。あの時俺はアスマに今のアスマの台詞をはいていた気がする。
「明日の事は明日考えろ。お前馬鹿なんだから」
 そんな台詞吐きました。はい。どうやら、アスマはわざと俺のあの時の台詞を言ってるらしく、気がついて顔を上げるとニッと笑った。
「とまあ、昔のはたけかかしさんの台詞を言ってみたり。で、こっからは俺の意見。一緒にいる時間が多くて幸せな時間が少ないより、楽しい時間がいっぱいのほうが俺は嬉しいと思うんだ。恨み言よりもさ。確かに九尾を恨んでないのかと聞かれると、恨んでる。でもよ。九尾が入ったのは四代目が勝手にナルトの腹の中にいれちまったからだ。あいつは可愛そうな奴なんだ。本当は同情される事はあっても、恨まれる必要はこれっぽっちもないんだ」
 風の音が強くなってる。
 夜目でも雲の動きが早いのがわかる。
 明日の天気は荒れるだろう。
「結局さ、お前は何がしたいの? かっこつけて酔ってるだけ? 大体何様だお前? 恨む? は」
 アスマの言葉は凄い一撃を生み出した。全部吐き出して楽になりたかった。
「それで動かないなら、引篭もってろ糞野郎」
 その言葉にむっとしてアスマを見たがアスマも同じくらいむっとしてる。
「誰にも優しくすんな。好かれようとすんな。後ろ向きでうじうじしてろ。腐れちんこ野郎」
 胸に人差し指突きつけられた。
 今日は何回アスマに馬鹿と言われたのだろう。
「とりあえずな、後悔すんな。お前は神様でもなんでもねえんだから」
 鼻を鳴らしてアスマは立ち上がった。そのまま入り口に向かう。
「相手も好きだと言ってくれてんなら、両想いじゃねえか。考えんなよ。かっこつけんなよ。後悔すんなよ。今のうずまきの方がお前の何倍も傷ついてるんだよ。バーカ」
 がちゃりとドアを開く。
 雨がぽつりと俺の肌に当たった。
「あ、えっと、酒おごる。今度」
「飯でもいいぜ」
 ぴっと指を振るとアスマは中に入る。残された俺はアスマの言葉に呆然と立ちすくんでいた。
 うずまきの方がお前の何倍も傷ついているんだ。
 今日の昼間の俺の態度をナルトはどう捉えていただろう。ナルトの位置に立ってみると、俺の態度はかなり痛い。好きと告白した相手から冷たいとも言える仕打ち。
 なんて事をしたんだ。俺は。
 雨がばらばらと落ちてくる。
 後悔、しない。
 したくない。
 俺は飛んだ。
 びょうびょうと耳元で風が切れる。
 水を吸った服は重く身体に張り付いてくる。忍び服でも長い時間雨に当ててると重くなってくる。
 張り付いた布はまとわり付いて体温を奪う。
 ナルトの部屋には気配が無かった。窓からブラインド越しに見てもベッドはぺしゃんこだった。
 こんな天気の日に出かけるなよ。しかも夜に出かけるな。
「くそ!」
 探せる所は探しつくした。あと心当たりがあるとすれば、演習所の池だ。
 そこにいなかったら何処を探せばいいのか皆目見当もつかない。雨のせいで忍犬達の鼻も当てにならない。
 こうやって、自分で探すしかないのだ。
 池のほとりに立つとさすがに息が切れた。
 水面を見ると中央付近に月がうつっている。
 月?
 空を見あげたが、雨がふりそそぐばかりで。月なんか見えやしない。
 いた。
 ざばりと呼吸するためにナルトが顔を出す。
「何やってんのよ。こんな時間に。天候も悪いじゃない」
 本気で驚いてこちらを見る。
 水面を歩いて近寄るとまた逃げようとするので、もぐる前に捕まえた。両脇に手を差し込んでナルトを持ち上げる。
 元々軽い奴だったので大した力もいれず大根でも抜くように持ち上がる。
「あ……」
 また裸で泳いでたの。
「う……先生こそ、どうしたんだってばよ。こんな夜に」
 足で股間を隠そうと必死に身体をよじってる。
「……ナルトにさ、言いたいことあって。聞いてくれる?」
 ナルトは不思議そうに俺を見た。
 視線を合わせてはっとして、顔をそらす。
「俺、服着るから下ろしてってば」
「うん」
 水面にそっと下ろすと、ぱしゃぱしゃと音をさせてほとりにある大きな樹の根元に走っていく。
 その後姿が綺麗だなとずっと見ていた。
 手早く着替えると俺の元に戻ってくる。
「えっと」
 また痛くなるの? 瞳がそう言いながら揺れてた。
「あのさ、我慢できないから言っちゃうけど。俺、ナルトが好きなんだ」
「えっ?!」
 タイミング良く、いきなり雨脚が強くなった。いや、悪いのか?
 ナルトは驚いて俺を見上げていた。きっと頭の中真っ白なんだろうな。俺だって驚いている。本当は手順を踏んで最後に告白しようとしたら、アスマのめんどくさい病(多分アスマはシカマルにうつされたんだな)が発祥してしまって、そーいうまどろっこしい手順がめんどくさくなって、端折った。
「だって。え? あの。だってさ、先生」
 判るよ。お前のことそういう目で見たこと無いって言った奴が好きだと言う。どんな好きなのか、それとも告白なのかわからないんだろうね。
「俺も、ナルトにエッチなこと要求する好きの好きです」
 言葉がめちゃめちゃ。
 意味は通じたらしくナルトの顔が一気に赤くなる。
「し、しんじらんねー!」
「信じなさい。俺が言ってるんだから」
 腕組みして自信満々にナルトを見下ろすが、どう考えても告白する態度じゃないのは確かだ。しかも、ナルトの信じられないは俺の言葉が嬉しくて信じられないと言ってる風ではなくて、何、突拍子も無い事をほざいてるんだこの教師はというニュアンスだった。
「とりあえず、俺の家に行こう。全部話すから」
 ナルトは信じられないと言うような顔で、こくりとうなずく。
 
 強くなる雨脚を窓から見上げながらナルトが髪を拭いている。外を見たって暗闇で判らないだろうに。
 雷鳴も轟きはじめ、外の様子は先程より悪化した。
「嵐だってば」
「こっちきたら?」
 ホットミルクを作ってテーブルの上に乗せる。ナルトは振り返るとまた不思議そうに俺を見た。
 俺もタオルで髪を拭きながら向かい側に腰を下ろす。
「もう少しで風呂沸くから、先にはいっちゃいなさい」
 無言で飲み物を飲む。俺は珈琲ナルトはホットミルク。
 結局、何もナルトは言わない。ナルトが何度も俺を見る。言いたい事は判るのだが、とりあえず風呂に入って人心地ついてから話をしたい。冷たい身体ではナルトが風邪をひいてしまいそうだし、俺も風邪をひきそうだったので。
「あの、あのさ、先生、さっきの」
 風呂が沸いたブザーが聞こえる。
「入ってきちゃいなさい。話はそれから。着替えとか出すから服は洗濯機に突っ込んでおきなさい」
「でも」
「風邪、ひくでしょ」
「……はい」
「ん」
 風呂場に案内してタオルやら何やら出してやる。着替えは俺のパジャマで。下はどうしようかと思ったけど、サイズ合わないだろうからやめて、上だけにした。パジャマだとひょっとしたら大きすぎるかも知れないなと思ってシャツも出す。秋口の冷える時期だから丁度いいだろう。
 ごしごしと水滴を拭いながら、俺はどうしようかななんて、告白のこと考えてみる。
 一度断っておきながら、自分から告白なんてどういうことだと思うだろう。いや、思ってるはず。説明できるわけ無い。アスマに焚きつけられたおかげで、ついた決心。
 俺としては、何もしなくていい。一緒に側にいれるだけで十分とか、まあ、建前上は思ってる。性欲を別な欲に変換する方法も知ってる。
 ナルトは小さいから。
 思い切り抱きしめたら壊れそうで。
 じっと自分の手を見る。
 大人の大きな手。
 でも、ナルトが望んでるのは俺の本音と同じ事。
「先生、あの、あがったってば」
 その声に現実に戻って振り返ると案の定、大きすぎたようでぶかぶかのシャツを着てナルトが俯いてたってる。手に持ったパジャマを着せる。
「寒いからね。暖かくしなさい」
 ソファーの上に巻物とかお菓子とか用意する。飲み物はさっきと同じでいいだろう。
「先生もお風呂はいってくるから、好きにしてなさい」
 そう言って風呂に向かった。
 風呂場で色々考えてたら、長湯になってしまい、リビングに向かうとナルトが座りながら寝ていた。
 洗濯機のスイッチを入れて珈琲を淹れ直しナルトの右隣のソファーに腰掛ける。しばらく寝顔を見ていたら、首痛くないかな? と思いゆっくり横にさせた。
 ああ、そうだ、毛布と枕。
 寝ているナルトをぼんやりと見ている。
 毛布に包まるように寝てるナルト。普通の子より発育は遅い方だと思う。
 本と、なんで、こんな成長もしてない子供を本気で好きになっちゃったんだろう。
 好きに理由なんて無いとか色々映画や本の中の名文句が思い浮かんでくるけど、まったくその通りだと思うと同時に、違うような気がしてならない。
 一枚絵の様に何度も繰り返すシーンや、ナルトを思うと胸が温かくなったり苦しくなったり。そばにいないと不安で、側にいても不安で。なんとも説明しがたい感情。ただはっきりしてるのはナルトが好きだということ。何をしても側にいたいということ。
 閉め忘れたカーテンを引きに立ち上がる。
雷光があたりを照らした瞬間、雨の中、一匹飛んでる鳥を見た。
 あの鳥は何処へ行くのだろう。
 ツガイを求めて夜の中鳴いて飛んでいるのだろうか?
「先生?」
 ナルトの声に、振り返って微笑んだ。


終わり

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