指先

 ほら、とカカシが何かをさす。
 その指先に見とれて慌ててナルトは眼をそちらに向けた。
「あれ、蝶々でしょ?」
 空の結構高い所を蝶々がひらひらと舞っている。良く気がついたなとナルトは感心して見つめた。
「こんなに寒いのにね」
 そういいながらマフラーに顔をうずめる。
 私服のカカシはタッパもあるせいか目立った。黒のロングコートなんか今時ゴスの人しか着ないよとナルトが出掛けに笑ったものだが、カカシに物凄く似合っていて、ついそんな憎まれ口を利いてしまう。
 一般的に見てカカシはカッコイイ。ぱっと人目を惹く存在だ。一緒に歩いているとつい、自分が側に居るのが不釣合いな気がして離れてしまうのだが、気がついたカカシがぎゅっとナルトの肩を抱く。
 ナルトはというとカカシと正反対なオレンジ色のダッフルコートを着ている。特に目立つ色でもないのに冬の風景には鮮やか過ぎた。しかも身長も小さい。
「先生、肩痛いってば」
「じゃあ、手、つないで」
 ナルトの肩にまわしていた手を差し出され、ナルトはポケットからほかほかの左手を取り出した。
「つめてー!」
「うわ、ナルトの手暖かい!」
 冷たい両手に包まれて、ナルトはそっともう一つの手もポケットから取り出すとカカシの手にあわせる。
 長い指先だとナルトは見とれた。
 その指先がナルトの身体を愛してくれるのだ。
「きっとあの蝶々も勘違いしたのかも」
「え?」
「ナルトの手みたいにあったいモノがあってさ、春だと勘違いして飛んでるのかも」
「馬鹿な蝶々だってばよ」
 蝶々の運命を想像してナルトは寂しく笑う。この寒さじゃすぐに死んでしまうだろう。
「そう? 俺はカッコイイと思うけど。冬の蝶々」
「カッコイイ……」
 蝶々にはあまり形容しない言葉にナルトは口の中で繰り返した。
「うん」
 手から頬にカカシの手が移動しているのに気がついてナルトは恥ずかしくて俯いた。
「!」
 するりと胸元に指がもぐりこんできたのに慌てて胸元を閉じてカカシの手を払う。
「んー惜しい」
「真昼間の! 公衆の面前で! なにさらすんだってばよ!」
「ちぇー」
「ちぇーじゃないってば!」
 ナルトの怒りにカカシは飄々と答えて楽しそうだった。上手い方法だったのになあなんて言いながら顎に指を当てて、失敗とばかりに笑ってる。
 ナルトはその指先を意識して動悸がとまらなくなりずんずんと先を急ぐのだった。

おわり

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