俺のもん!

前編

「皆お早う。いやー今日は」
 そこまで言ってカカシは目を見張った。
 ナルトが二人いる!
 思わず目頭を押さえるがやっぱりどう見ても二人だ。
「あ、影分身」
 と、ぽんと手を打つ。一番高い可能性を口にしたのだが、その言葉を聞くとナルトが重い深いため息を漏らした。
「やっぱ、カカシ先生じゃ駄目見てーだからよ。ばあちゃんとこ行ってくるわ」
「そうね。その方が確実だわ」
「ふん、さっさと行けばいいんだ」
 ナルト、サクラ、サスケの順にため息をつく。
 状況が把握できず、カカシは疑問符をいっぱい浮かべてナルト達を見つめるが誰も応えてくれようとはしない。
「てめーら! ナルトによるなってば!」
 とナルトの首にかじりつき足で追い払おうとしてるナルト……の影分身みたいなもの。
「えーっと……どういう状況なわけ?」
 ナルトの方に近寄ろうとするとずいっと首にかじりついてたナルトが立ちふさがる。
「?」
「てめーは半径十メートル以上近づくな! ナルトが穢れるってばよ!」
 びしっとカカシのこめかみに血管が浮いた。
「うわ、何するんだってばよ! おろせ! ナルトを離せ!」
 ナルトを小脇に抱え怒りまくるナルトを肩に担ぎ上げる。
「ちょーっとツナデさまの所いってくるから。今日の任務はアスマ達と一緒だから詳しい事はアスマに聞いてね」
 サクラ達に笑うと、蹴る噛むを繰り返す肩の上のナルトに悪態をついてその場から消えた。
「……サスケくん。あれ、どういうことかしらね」
「知るか。さっさと合流するぞ」
「あーん。まってよ!」
 内心サクラは舌打ちした。絶対あの三人について行ったほうが楽しいに決まってる。
 でもサスケと二人きりの任務は魅力的だった。
 サクラはイノの存在を綺麗さっぱり忘れていた。
 
 火影椅子にどっかりと座りナルト達を見てツナデはため息をつく。
「めんどくさいねえ。さっさと影分身消しちまいな」
 ひらひらと手を振りながらツナデもまた、一番可能性が高い事を口にしたのだが。
「消えねえんだってばよ」
 半べそでナルトが訴える。消えてたまるかとばかりにもう一人のナルトがナルトに抱きついて目でカカシをけん制する。
「まだ気がつかねえんだってば?」
「ん?」
「火影もたいしたことねえってばよ」
 うわにっくったらしい。
 そこにいた全員、といってもツナデとカカシとナルト二人の四人だけだが、三人は同じ事を思った。
「すまんね。生憎と無能な火影で。その無能な火影にお前の正体を教えてほしいんだが」
 ツナデの後ろに真っ黒なチャクラが渦巻いていた。さすがに言った本人もびびったのか、ふてぶてしい顔の代わりに不貞腐れて答える。
「九尾」
「え?」
 ナルトは驚いて九尾と答えたそいつを見る。上目使いでナルトを見ている。
「やっぱ怖いってば?」
「いや、だって、え? 訳わからねえってばよ」
「具現化したということか?」
 ツナデの問いにきょとんとして九尾が答える。
「そういうのとも違うけど。九尾の精神だけかな。チャクラはナルトのをもらってるから」
 カカシが気づかれないようにポーチに手を伸ばす。
「言っておくけどな、ナルトと色々リンクしてるからひょっとしたら俺の怪我がナルトに移るかもしれないぜ」
 その様子に九尾の目が眇められカカシをじろりと見やると嫌な笑いを浮かべた。その言葉にくぐもった声を上げカカシの手がゆっくりとポーチから離れる。
「……まあ、ナルトのチャクラが切れたら消えるんだろう。それまでカカシ。お前が面倒を見ろ」
「「ええ?!」」
 九尾とカカシが不満の声を上げる。ナルトも驚いてツナデを見た。
「例え力無くても九尾だからな。暴走したら押さえ込むのはカカシしか適任者がいないからだ」
 もっともな理由に九尾とカカシはぐっと言葉に詰まった。ナルトがオロオロとして二人を見ている。
「ナルト。お前は変調をきたしたらすぐに私の所に来る事」
「だ、だったら、ナルトも一緒に」
「だから! ナルトが穢れるって言ってるってば!」
 カカシの言葉に九尾はナルトを隠すようにカカシとナルトの間に仁王立ちした。空間にばちばちと火花が散る。
 ツナデは呆れた様に二人を見ているが、声をかけようとしない。馬鹿な争いに巻き込まれたくないという態度がみえみえだ。
「しかし、名前が無いと不便だな。おい、九尾、九尾以外に名前はないか?」
「名前? ナルト。俺どんな名前がいいってば?」
 問いかけられたナルトは幾分疲れた笑顔を見せた。
「ナルでいいんじゃねえの?」
「じゃあ、それでいい。俺はナルだ」
 ツナデは思い切り深いため息をついた。

 このナル。ナルト以外は懐かず、ナルトに近づく人々をことごとく追い払う。
 これにはさすがのナルトもまいって、疲れたように質問した。
「何でお前、俺に近づく人追い払うんだってばよ」
「ナルトは俺のもんだからだってば」
 間髪入れずにナルが答える。
「俺が、一番ナルトを大好きだからだってば」
 同じ顔が同じ顔に告白する姿はナルシスト以外の何者でもない。
「大丈夫だ。ナルトは俺が守ってやるってばよ」
 イノセント。
 本当に邪気の無い笑顔で言われてしまい、ナルトは言葉に詰まった。が、これはどう考えてもおかしい状況なのだ。
「あのさ、俺、いっぱいいろんな人と話せるの嬉しいんだってば。だって、それって俺を受け入れてくれるって事だし、でもさ、お前が追い払っちゃうから、今悲しいってばよ」
「そうなのか。ナルトが悲しいなら止めるってば」
 気のせいか伏せられた耳が見えた。思わず慰めようとナルトの手がナルの頭に伸びた瞬間、ナルはきっと顔を上げてカカシを睨んだ。
「だけど、てめーは別だ!」
 びしりとナルはカカシを指差す。
「ねえ、俺、ナルトと君に何かした?」
 心底困りきってナルに質問するが、ふいっとそっぽを向かれてしまい、カカシは困ったように頭をかいた。

 面白くない。
 インスタントラーメンの袋を乱暴に破き、水のままの鍋にほおり込む。スープの袋が手で切れなくてイライラして歯で開けた。
 一体なんだってばよ!
 昨日、いきなり九尾のナルが現れてカカシと一緒に住む事になってからナルトはイライラのしっぱなしだ。しかもナルがいるとナルトはカカシの側に近寄らせてもらえない。
 どーせ、俺が好きなふりしてるだけだってばよ。絶対カカシ先生狙いだってば!
 菜ばしで固い麺をぐさぐささしていく。
 刺しながらナルトはしょんぼりと肩を落とした。
 いいなあ。ナルの奴。一人でご飯食べなくてもいいんだってば。
 しかもカカシと一緒。
 胸がきゅっと締め付けられる感覚に、ナルトは寂しくなった。
 誰かと一緒に住む事自体羨ましくて仕方がないのだ。しかもそれが大好きなカカシとならば尚更。
 カカシがナルトの事をナルトが想ってるほどには好きじゃない事をナルトは知っている。だからどんな理由であれ一緒に住めるナルが羨ましくて仕方が無かったのだ。
「贅沢だってばよ」
 おかゆ状にぐつぐつ煮込まれていくラーメンを見ながらナルトは呟いた。

「大体、てめーはナルトにべたべたし過ぎなんだってばよ!」
「ちょっと、ナルトと一緒の顔でそう怒鳴らないでよ」
 カップラーメンを啜りながらお互いにらみ合ってる。
「大体、何でてめーなんかと向かい合って食事しなくちゃなんねーんだってば」
「こっちの台詞でしょ!」
「ああ、今頃ナルトと一緒に、インスタントラーメンを煮すぎちゃったv馬鹿だなーとかいいながら一つの丼から啜りあって食事してたんだってばよ!」
「その妄想は何処から出てくるんだ!!」
「妄想じゃねえ! ナルトの家にいたら実際起こってた事だってば! ばーか!」
「妄想だろ妄想! ナルト迷惑そうだったじゃない!」
「照れてんだよ! てめーの目は節穴だろ! あ、カカシだからマジックか! マジックでぐーるぐる! すまなかったってばよ」
「こんの。可愛くないガキだね! いや、ナルトと同じ顔だから容姿は可愛いけどさ! 性格が可愛くない!」
「んだとー! てめえナルトが可愛くねえとでもいうのか!」
「だから容姿は可愛いっていってるんでしょうが!」
「だからてめえは油断ならねえっていってんの!」
 カップラーメン片手に喧々囂々と喧嘩は尽きない。良くこんなつまらない事で喧嘩できるものだと感心してしまうくらい尽きない。
「やるか?!」
 カカシは写輪眼を出すとすかさず火遁の印をきった。
「おーっと。言っとくけど、俺とナルトの感覚はリンクしてるんだってばよ! 傷つけばナルトも傷つくかんな!」
「何?!」
 驚くカカシを得意そうに椅子の上に踏ん反り返って見下ろすナル。そう言えば火影室でそんな事を言ってた気がする。すっかり忘れていてカカシは悔しそうにナルを睨む。
「お前はー! なんという事を!」
「は、だって、好きな人と痛みを共有したいってばよ!」
 とさらに得意そうに笑うので小憎たらしい事この上ない。悔しがって地団太を踏むカカシを見下ろしてナルは得意そうに哂う。
「お前が、あそこで邪魔さえしなければ! 今頃ナルトと一緒に飯が!」
「お前と一緒にいさせるかああ!」
 と延々とこの調子できりが無い。第三者がいたらため息をつきたくなるだろう。
 ナルはナルトにべたべたするカカシを心底嫌っていたし、カカシもナルトとの仲を邪魔するナルを邪魔だと想っているから「歩み寄り」と言う言葉は脱兎のごとくどっかに逃げさっていった。
 ばちばちと火花を散らし、ふんとそっぽを向く。

「ナールートー!」
 朝一番、弾丸のようにナルが飛びついてきた。
「すげー会いたかったってば!」
 何時もの待ち合わせ場所に行くと、すでにナルとカカシが来ていて、ナルトは少し唇を噛んだ。
「は、離せってば」
「だって、一日離れていたんだってばよ! 俺、寂しかったんだってば!」
 サクラとサスケはしらけたように明後日の方向を向いてる。どう見てもナルトが影分身をつくって、遊んでるようにしか見えないからだ。
「あ、あのさ、少し離れてくれっとありがてえんだけど」
 困ったようにナルトが頬をかきながら言うと、照れ屋だってばよと勘違いな言葉を言って手を握る。これじゃ、今のとそう変わらないじゃないかと文句を言おうとしたのだが、笑顔の前に言葉を飲み込んだ。
 昨日あれだけ、むかついてた事もナルに会うとその一途な愛情につい、ほだされてしまうのか苦笑いを浮かべるだけになってしまう。
「こらこらこら! 任務はフォーマンセルなんだからお前はツナデさまの所に行きなさいよ」
「てめーが行けよ。上忍だからSランクとかの任務山ほどあるんだろ。下忍の仕事なんかどーせしないんだから丁度いいってばよ」
「だ、駄目だってば!」
 その台詞に思わずナルトが叫んだ。叫んでからはっとして口を押さえて真っ赤になる。
 気まずく口を押さえて上目遣いにカカシを見れば、ナルの飛び蹴りを顔面に食らっている。ボンと音がして丸太に変わる。
「ち、変わり身か!」
 きょろきょろとカカシを探すナル。カカシはと言うとすぐ真上の樹から飛び降りてきた。
「お前ねえ! 何すんのよ! 危ないじゃないの!」
 あまりの事に唖然としてナルトは見ていたが、わなわなと身体を震わせ、キッと二人を睨みつける。
「俺がばあちゃんとこ行くってば! 喧嘩でも何でもしてろ!」
 踵を返そうとすると左手が引かれた。
「ごめんナルト」
 泣き出しそうな顔でナルトが睨んでくる。
 反省したようにしゅんと顔を伏せるナル。
「ごめん。俺が行くってば。だからお前はここにいるんだ」
 命令口調で言うと顔をあげてナルは拳でぐいぐいとこぼれてきそうなナルトの目元を拭った。
「でも、帰りは一緒にラーメン食べような」
 ニッと笑って手を振るとナルはアカデミーの方にかけていこうとして振り返った。
「忘れてた」
 そういって、ちゅっとナルトの唇にキスをする。
「じゃ、夕方な!」
 ぶんぶんと手を振ってナルがアカデミーの方にかけていった。

 任務の草むしりをしながらナルトはナルの事を考えていた。アカデミーの方にかけていくときの顔を見て少し心が痛んだのだ。
 悪い事しちゃったってば。
 Dランクの任務しかも草むしりだったら、人数とかは関係ないから一緒に行こうと言えばよかったのだ。
 でもそうしたら、またカカシ先生と。
 ナルトには二人の喧嘩が凄く楽しそうに見えて羨ましかった。
「何よ、あんたあいつに元気まで吸い取られちゃったの?」
「サクラちゃん」
 隣で草をむしっていたサクラが心配そうにナルトの顔を覗き込む。
「らしくないわよ」
「うん」
 それ以上言えなくてナルトは黙々と草をむしる。長時間下を向いてたおかげでさすがに膝が痛くなって伸び上がる。
「ナールト。お昼だよー」
 ひょっと上からカカシが覗き込んでびっくりした。丁度伸ばした手の先にカカシの顎がある。
 とどかねえってば。
 ナルトは身体を元に戻すと前を向いた。かなりの範囲を抜いたらしくさくらたちが小さく見える。
「気がつかなかったってばよ」
 ぱんぱんと服についた汚れを落とす。
「あのさ」
 話しかけてきてたカカシをナルトはドキドキして見上げる。ちょっと照れたような仕草で頬を掻いてるのを見て、子供っぽいってばよと笑んだ。
「今朝さ、俺ね、凄い嬉しかったの」
「え?」
「駄目だって止めてくれたでしょ」
「あ、う、うん」
 思い出すと凄く恥ずかしくてナルトは真っ赤になった。あの時はカカシに行って欲しくない一身で叫んだが、あとから思い出すと恥ずかしくて仕方が無い。
「本当にね。嬉しかったんだよ」
 くしゃりとカカシの手がナルトの頭をなでる。そのままくしゃくしゃとカカシはナルトの頭をなでるので、ナルトはくすぐったそうに笑った。
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