俺のもん!

後編

「それで」
「それでってなんだってば」
「何でナルトから離れたんだい? 大好きなのに。てっきりあたしはカカシを追いやるかと思ってSランクの任務用意してたのにさ」
「鋭いってばよ」
 きゃらきゃらとナルトは任務の書類を整理しながら笑った。笑い事じゃないよと睨みつけられて笑うのを止めるがやっぱりおかしくて笑ってしまう。
「あんさー。俺、好きな子泣かすほどカスじゃないってばよ」
 ちょっと泣かしちゃったけど。と、ぺろりと舌を出すが悪いとは思ってないらしい。
「俺はナルトには幸せでいて欲しいんだってばよ」
「だったらカカシとの仲を認めてやれば良いのだ」
 肘をついて呆れたように任務の書類をひらひらと振ると、ナルは立ち上がってひったくるように受け取った。
「俺の可愛いナルトをあげるんだってばよ? 少しばかりの意地悪いいじゃない? ほら、それに人の不幸は蜜の味っていうってばよ」
「いいねえ」
 お互いニヤリと笑みを交わす。
 気がつくと日が西に傾いている。
「でもさ、俺ってば、ナルトがだいだいだーいすきなんだってば。それこそ、具現化しちゃうくらいに大好きなんだってば」
「純愛だねえ」
「純愛だってばよ。さって、とこれ、まとめたってばよ。そろそろナルト帰ってくる頃だからいく」
「ああ、おつかれさん」
「さーどーやってカカシを泣かしてやろうか、腕がなるってばよ」
 がんばれよカカシ。
 心の中で応援しながら、面白くしてくれよとナルに期待をかけてしまうのツナデ。少しばかりワクワクしていた。

 朝の集合場所にポツンと立ってナルトを待っている。そわそわと落ち着きなく立ったり座ったりを繰り返しナルトが朝向かった方向だと思われる方向に背伸びをしたりとナルはナルトの帰りを待っていた。
 まだかな。
 軽く地面を蹴っているとワイワイとした声が聞こえてナルはぱっと顔を上げた。
「ナルトー!」
 ナルトの姿を見つけてぶんぶんと手を振る。
 ナルトに会えるのが嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
「お帰りだってばよ!」
 こらえ切れずにナルはナルトを抱きしめに走った。
 カカシはイチャパラから少しだけ顔を覗かせてナルとナルトを見る。
 顔は一緒なのに。
 気がつかれないようにため息を漏らしナルのスキンシップに困ったように身体を引いてるナルトを見る。
 自分じゃ何時もナルのような行動をしてるのに、実際やられると逃げ腰になってる。
 他から見ていれば甘え全開のナルトの態度なのだが、実際関わってみると出来る事は自分でする。手伝おうか? と言っても、やった! とは喜んでもきっちり任務はこなして手伝ってもらった分の任務をやるので結局同じ量だったりする。
 ナルもなんだかんだ言ってナルト以外は絶対甘えない。
 黙っていると目だけでは判断できないから、今はカカシが買ってやった服をナルは着ているが、服装を別にしなくても一目見ただけでカカシはどちらがナルトか判る。
 ナルはナルトにまるで世界に二人しかいないようににぴったり寄り添って手をつなぎ指を絡める。最初は嫌がっていたナルトも一日たつと照れたように頷いて話を聞いている。
 ふっと今朝のナルトを思い出して慌てて隠れている口元をさらにイチャパラで隠した。
 あれって、期待しちゃっていいのかな。
 どきどきとナルトを見ると丁度ナルと目が合って、ふふんと鼻で笑われる。
 可愛くないね!
 カカシは羨ましそうにナルを睨んだ。

 別れ際にナルトと一緒に帰る! とダダをこねるナルをカカシが小脇に抱えて帰っていくのを羨ましそうにナルトは見送り、小石を蹴りながら家路についた。
 ずりいってばよ。後から来たのに。
 こん。
 思い切り蹴ったら何かに当たって蹴った小石は草むらの中に消えてしまった。
 石にまで去られた気分でナルトは寂しくなる。
 嫌な奴ではないのは判っているのだが、どうしても羨ましくてやっかんでまう。
「ナルだったらなあ」
 寂しそうに呟くと次に蹴る石を探しながらナルトは夕闇の中を歩いていた。
 こんなに他人になりたいと思うのは生まれて初めてだった。ナルが他人かどうかはわからないが。

 イライラとしてナルとカカシはにらみ合っていた。
「お前ねえ、少しは気をつけて行動しなさいよ」
「悪かったってばよ」
「ほら手、出しなさいよ」
「いいってば。自分で出来るってば」
「出来るわけ無いでしょう。利き手なのに。本当に落ち着きないね」
 隠そうとする手をぐいと掴んでカカシは火傷の具合を見た。
 カカシの家の台所はカカシが使いやすいように改造してある。シンクとかはしょうがないが、コンロとか調理台とかは使いやすいようにカカシの好みの位置に合わせているので普通の家庭よりは高い位置にある。ナルの身長だったら椅子でも持ってこないと薬缶を無事におろせない。
 横着をして、薬缶を火から下ろそうとした結果、右手にナルはお湯をかぶってしまった。
 慌ててナルを抱えるとシンクに手を置いて水をかける。
 暫く冷やしてどの程度か見ようとしたら、ぱっと隠されてにらみ合いになってしまったのだ。
 レベル2くらいか。全治二週間位かな。ああ、九尾だっけ。だったらもっと治りが早いかな。
 とカカシは見た。水ぶくれがニ、三個出来てあとは赤いくらいだ。
「まったく。ナルトと感覚リンクしてるんでしょ。気をつけなさいよ」
「そんなの言われなくてもしてるってば!」
 軟膏を塗りながらカカシが言うと何時もより弱々しくナルが答える。
「億劫するからこーいう事になるんでしょ」
「うん」
 物凄くしょげ返っている様を見ると叱るのが可愛そうになってくる。
 そうしているとナルトが本当にそこにいるようでカカシはふっと笑ってくしゃくしゃと髪を撫でた。
 何時もなら手か足が飛んでくるのに、今日は本当にへこんでいるらしくカカシに撫でられるままになっている。
 こうしてみるとこいつもかわいい奴だな。
 カカシはくすりと笑った。
 ナルトが好きと言ってる分だけ正直で一途で可愛いものである。
「ナルト、痛がっているだろうな」
 ナルトの事を考えていたとしって、カカシは思いの一途さに胸が締め付けられた。
「あんさ、あんさ、今からナルトの家いってもいい? きっと痛がってるってば」
 泣きそうな顔でカカシを見上げる。
「じゃあ、一緒に行くか」
「……うん」
 夜道を二人でナルトの家に向かう。
「俺さ、多分お前とは違う思いでナルトの事大好きなんだってば」
 ナルは唐突に話し始めた。俯いてとぼとぼとカカシの横を歩いてる姿はしかられた仔狐のようだ。
「俺と違う好き? 何で。好きに種類なんかないでしょう。俺もナルト大好きだよ」
 半月が白く道を照らしている。真夜中近いと言う事もあり出歩いてる人はいなかった。
「あるんだってば。友達の好きとか、家族の好きとか。恋人の好きとか」
「区分けちゃうの?」
 じろりと睨まれてカカシはからかいすぎたかと口を押さえた。
「俺の好きはお前の好きとは違うんだってばよ。大事でたまんなくて絶対幸せになってもらいたいと思ったのに、よりによって腐れ上忍と!」
 静かに語っていたが感情が抑えきれず語気が強くなる。
「ナル、意味わからないよ」
「判られてたまるか! まったく! 腹立たしいってばよ! 頭にくるってばよ!」
 何時ものナルに戻ってカカシは苦笑した。足音荒く道を踏みしめる。
「ねえ、その腐れ上忍って言うの俺? それって期待しちゃってもいいって事?」
「知るか! てめえで聞け! 告白も出来ないヘタレ男が!」
 マスクから出てる顔が見る間に染まった。
「や、その、そんなにバレバレ?」
「わかんねーのはナルトとてめーだけだってばよ! ああ、馬鹿みたいだってば! 何でこんな話しをしているんだってば。あーむかつく! 早くナルトに会ってちゅーしたいってばよ!」
 最後の方は本音を叫んでいる。
 カカシはバレバレだったかーと赤くなって空を見上げた。視線の先にはナルトの家の窓が見える。まだ明かりがついてるのを見てカカシの胸が高鳴った。
 邪魔者はいるが会えるだけで嬉しかった。
 
 手にぴりぴりとした痛みが走って咄嗟に抑える。
 ナルの奴何かしたんだってば?
 大方カカシと喧嘩して物でも投げ合ってぶつかったのだろう。だとするとかなり痛い。皮膚がぴりぴりとする。
 こんこん。
 窓の方から音がして振り向くとナルとカカシがへばりついてた。
「何してるんだってばよ!」
 慌てて窓を開けるとよいしょと二人で入りこむ。
「ナルト! 会いたかったってば!」
「はいはい。それは後でね」
 とカカシは抱き付こうとしたナルの首根っこを捕まえる。
「やー!」
 仲いいってばよ。
 むっとしてそっぽを向くと痛みが胸の中心を襲う。見たくなくて早く追い出したいと思うのにカカシにいて欲しいという矛盾。
「腕、痛くない?」
 目の前に膝を付いてカカシがナルトの痛む手を取る。
「……」
 ナルトは黙って目を逸らしていた。
「ごめんってばよ。俺、火傷しちゃって」
 そういって火傷した手を見せると白い包帯が巻かれていて。
 ぎりっとナルトは唇を噛みしめた。
 醜い自分が心の奥底から這い上がってくる。
 カカシ先生が巻いたんだ。
 その事実だけが悔しくて。
「嫌い」
 口の中でぼそりと呟くが、醜い心はどんどん奥からあふれてきて、ナルトは自分で言っちゃいけないと判ってるのにその行動を止めたくなかった。
 ナルを真っ直ぐ見ると今度ははっきりとその言葉を口にした。
「嫌い。だいっ嫌い」
 ナルの顔が一瞬色を失って大きくゆがむ。
 上を見て何かをこらえると、窓から静かに出て行った。
「ナル!」
 カカシは咄嗟にナルの方に声をかけてしまう。好きな子から言われたらどんなに辛いか判っているし、ナルがナルトの事を大好きなのはカカシが一番判ってる。
「ナルト、今のはちょっと酷いよ」
 ナルをかばうカカシの態度が胸に痛い。自分が悪いのは判っている。
「先生も大嫌いだってば! 早く出て行ってばよ!」
 つい、心にも無いことを言ってぐいぐいとカカシの身体を窓の方に押した。
「ナルト……」
 ぎゅっと唇を噛んでナルトは俯いている。
 カカシはため息をつくと窓から飛んだ。
 二人がいなくなった部屋でナルトは立ち尽くす。
「俺が一番、嫌いだってばよ」
 ナルトは自分自身を責めていた。

 ナルの足が速くて何処へ行ったか判らず、カカシは気配を頼りに探した。
 カカシの家にナルはいた。
 てっきりどっかで泣いているだろうとした予想は外れた。真っ暗な居間でうずくまって膝を抱えてる。
「ナル」
 電気をつけてもピクリとも動かない。
「……本気で嫌いだっていわれた……」
「機嫌が悪かったんだよ。夜遅いしさ」
「ナルトに嫌われたってば……」
 ナルの目からボロボロと涙がこぼれる。
 どうフォローしてもそれは消せない事だ。
「何でだってば。俺、こんなにナルト好きなのに、何で判ってくれないんだってばよ。何でナルトは俺を好きになってくれないんだってば、どうしてこんなに好きなんだってばよ……」
 カカシは隣に同じように膝を抱えて座ると、ナルの頭を軽く叩いた。
「俺も、今さっき大嫌いって言われちゃったよ」
「嘘つくなってば! 同情なんかすんな!」
 涙目で睨みつけるので迫力が無い。
「いや、本当」
「んなわけ無いだろ、だって!」
 そこまで言ってナルはきゅっと唇を噛む。
「お前は嫌われないってば」
 そう言うとナルは自分自身がますますなさけなくなって、悲しくて仕方が無い。
 本当はカカシの所に戻るはずではなかったのだが、ナルトに拒否された今ではここしか戻る所がなかったのだ。
 ツナデにはカカシにナルトをあげる事をいった。それは事実だ。でも、ナルトから好かれたいという気持ちもあって、一生懸命好かれようと努力した結果がこのざまで、ナルは悲しくて悲しくて仕方が無かった。
「俺なんか、消えちゃえばいいんだ!」
 そう叫んだと同時にボンっと消えてしまったナルをカカシは呆然としてみていた。
「え? ナル?」
 確かにナルトの影分身みたいなものだといっていたので、何時かは消えるだろうと思っていたのだが、こんな気まずい分かれ方はない。
 封印されてるからナルトの中に戻ったとは思う。でもナルを形成していた九尾の自我はきえてしまったのかもしれない。もう一生あえないかもしれない。
 ナルの髪をなでていた手をカカシは見つめた。
 さっきまでいたのに今はもういない。
 
 頭が重い。
 瞼が重い。
 心が重い。
 ナルトの目覚めは最悪だった。
 のっそり起き上がって閉じかけた瞼をこする。
 そのまま洗面所に向かい顔を洗うと鏡を見た。
 ナルに謝ろう。
 あれはどう考えても自分が悪い。自分のヤキモチでナルに嫌な思いをさせてしまった。ナルは悪くない。
 何時もナルトを大好きだと言ってくれているのにあの仕打ちは酷いと思う。
 昨夜は頭に血が昇ってナルの味方をするカカシも憎らしくて大嫌いとほおりだしたが、ナルもカカシも悪くない。
「俺が馬鹿なだけだってばよ」
 自分の事だけでちっとも回りが見えてなかった。言われた本人がどれだけ傷つくのか判りもしなかった。
「うん。謝ろう」
 ナルトは自分の頬を一つ叩いた。

 待ち合わせの場所にはサクラとサスケが来ていてナルとカカシの姿はない。
「遅刻ね! きっとカカシ先生の遅刻病がうつったのよ!」
 サクラはナルを人格として認めていた。サスケも最初こそは戸惑っていたが、今ではナルとナルトは別人だと思ってるらしい。
「おはよーってばよ!」
 向こうの方からナルが大きく手を振ってナルトめがけてかけてくる。
「愛しい人がきたわよ」
 ニヤニヤとからかうサクラに困ったように笑顔を浮かべる。ナルは昨夜の事なんかけろっと忘れてるらしくナルトに飛びついてきた。
「お早うだってばよ!」
 いつも通りキスをする。ナルトは、少し眉を寄せた。
「あら? カカシ先生は?」
「あ、今日はどうしてもSランクの任務行かなくちゃなんねーって」
 そういってごそごそとポケットを探り折りたたんだ任務依頼書をサクラに渡した。
「今日の任務だってばよ」
「じゃあ、今日はナルが一緒なのね」
「そうだってばよ。腐れ上忍よりは役に立つってばよ」
 ニシシとナルが笑う。
「それに今日最後だってば」
「え?」
 ナルトは驚いてナルを見た。寂しそうに笑うナル。
「いい加減もどんないとさ、ナルトの身体きっとおかしくなるってばよ。影分身みたいなもんだしさ」
「ナル……」
「だから、今日はよろしくってばよ!」
 ぺこりと皆に頭を下げると元気良くナルは出発! と号令をかけた。
「ナル、あの、その」
 道を歩きながら何時も通り手をつないでくるナルにナルトは言いにくそうに声をかけたが、決心したように一度頷くとナルの方を見る。
「ごめんってばよ。俺、昨日ナルに凄い嫌な事しちゃって」
 サスケとサクラを先にいかせる。二人がいるとどうも話し辛くて、話があるから先に行ってとお願いして先に行ってもらったのだ。サクラは喜んでOKした。それもそうだろう。サスケと二人きりで歩けるのだから。
「気にしてねえってばよ。俺、ナルト大好きだし!」
 ナルトが変な顔をして顔を上げた。
「お前、誰?」
 その問いにナルは何のことかわからずキョトンとしてナルトを見る。
「何?」
「お前、誰だってばよ。ナルじゃないだろ!」
 ぶんっと手を解くとナルトは構えた。
 じっとナルはナルトを見ていたが、観念したように頭をかきながらため息をついた。
「どうして判ったの?」
 ナルトは睨みつけたまま動かない。
「俺だよ。俺」
 ぼんと煙が出てカカシがそこに立っていた。
「カカシ先生!」
「何でばれたの?」
 改めて聞くとナルトは暗い表情でそっぽを向きながら答える。
「だって、キスが……」
「キスねえ」
 ふっと、ナルトはカカシとキスしたのだと気がついて顔を上げて真っ赤になった。
 目が合ってカカシが微笑むと慌てて目を逸らす。
「キ、キスが何時もと違うから」
 された瞬間エッチなキスだなと思ったのだ。そこまで言う必要はないとナルトは口をつぐむ。
「それに、何かさっきの大好きって言い方、気まずさとか微塵も感じなかったから」
 慌ててナルトはいい足す。
「えっと、俺だったらやっぱりちょっと気まずくて、ギクシャクすると思うんだ。ナルは他人だけど俺だからその。なんとなく違うかなって」
「そう」
 行こうかとカカシがナルトの背中を叩く。
「あ、あの、やっぱナル怒ってる?」
 正直に言うべきだろうかとカカシは悩んだ。正直に言ったらナルトの事だから気に病むだろう。少しの嘘を折りませてカカシは話す事にした。
「ん? いや。あのね。ほら、ナルって影分身みたいなもんだったじゃない? ナルトのチャクラが切れそうだって気がついて、ごめんねって伝えてって、消えちゃったのよ」
 悲しんで消えたとはいえない。
 自殺のようだとカカシは思い切なくなった。
 どんなにナルトが好きだったのだろう。あんなに安定していた状態を一挙に消すぐらいの深い悲しみは、どのくらい心が痛んだのだろう。
「俺、謝ってねえってば」
 しゅんとしょげ返ってナルト呟く。
 カカシが黙っていればずっと秘密は守られるだろう。カカシしか知らないのだから。ナルが浮かばれないとは思ったが、ナルは望まないだろうし、カカシも望んではいないのだが、心が痛む。
「ナルト。ナルはもともとは九尾なんだよ」
 そういってしゃがむとナルトの腹にそっと手を置く。
「元に戻っただけなんだから、ナル自体は消えてないよ。心はここにあるんだから」
「そうなんだってば?」
「うん」
 ナルトはカカシの手の上から自分の腹を押さえた。
「昨夜はごめんってばよ」
 そう自分の腹に声をかける。
 言わなくて正解なんだとカカシはナルトを見つめる。伏せた目に涙が滲んでいた。
 
 ナルトにばれてしまったので変化してても意味は無いとカカシは術を解き何時も通りに任務につく。
 ナルのことを聞いてきたサクラにナルトに話した事をそのまま話すと、突然の別れにがっかりした顔で「残念ね」と呟いた。
「ナルはどうして俺を好きになったのかな」
 任務帰り、ナルトの歩幅にあわせてカカシが歩調を緩める。
 サクラとサスケは何時も通り先に帰ってしまい、一緒に帰ろうとどちらが言い出したでもなく、一緒に歩いていた。
「ナルにしか判らないね。それは」
 イチャパラを読みながらカカシは答える。
「……」
 綺麗な夕焼けに見とれるようにナルトは顔を上げていた。
「ね、先生。ナルってどうしてつけたか判る?」
「ナルトのナルじゃないの?」
 本を閉じるとポーチにしまった。
 少しゆがんだ笑顔を見せるナルト。
「違うってば。ナルシストのナル。同じ顔で好きだって言われたらそう思うってばよ」
 ざわざわと風が枯れ草を鳴らして行く。
「俺はナルが嫌いだったんだってばよ。うるさいし勝手だし。同じ顔なのに他人に思えた。あんなに」
 言葉を切る。
 あんなに一途に好きと言われたのも初めてで戸惑った。
「でもさ、いい奴だったってばよ。ナル」
「今は?」
 ナルトはさびそうに笑っただけで答えなかった。答えられなかった。
 嫌いとか好きとか簡単に言える感情ではなかった。カカシと仲良かったから嫉妬はしたが、嫌いかと聞かれると嫌いではない。
 甘い疼きが胸に走る。
「……もう一度、ナルに会いたいな」
 会って謝りたかった。それから自分からキスをしてあげたかった。
 二人は暮れ行く道を家に帰りたくないと、歩いていた。

 夢を見た。
 真っ黒な空間であたりを見回しても何も見えない。
 ただ、足元に地面を感じ、自分の手足が見えたので少しだけカカシはほっとした。
 同時に夢なんだなと判ってきょろきょろと辺りを見回す。
 派手な和服のナルトが座るような姿で宙に浮いていた。
「ナル?」
 ナルトだと思っていたのだが、目の色でカカシはそれがナルである事を知る。
 夢に見てしまうくらい気にしていたのかと思うと、ナルは静かに首を振った。
「そうじゃないってば。俺が見せてる夢なんだってば」
「じゃあ、お前、本物のナルか」
「そうだってばよ」
 笑い方が寂しくてカカシはナルに近寄った。
「突然消えるなよ」
 少し怒るカカシに困ったような笑顔を見せる。
「ナルトに否定されたら、存在する理由が無いってば」
「凄い生き様だね」
「それしか俺が存在する理由なんて無いってば」
 片足を引き寄せて抱える。
「どうやって座るの?」
「座ろうと思えば座れるってばよ。何処でも」
「じゃあ」
 その場に椅子に座るように腰を下ろす。本当に座れてカカシは驚いた。
「夢だってばよ」
「ああ。それよりさ、ナルトが寂しがってたよ」
 言ってからしまったと思った。ナルトの腹の中に帰ったと言うことは、会話を聞いていたかもしれないのだ。「少しは寂しがってくれたってばよ」
 ニシシとナルが笑う。
「戻ってこれないの。こっちにさ」
「無理、ナルトに拒否されて、俺まだ落ちこんでいるんだから」
「一時の感情なんか良くあるじゃない」
 イチャパラを読みたいなと思ったら手の中にイチャパラが現れる。
 何度も読んだはずなのに、読んだ事も無いイチャパラで読んでいった片っ端から忘れてしまう。
「そう! 別にお前に会いたくって夢に出てきたわけじゃねんだってばよ!」
「何よ」
「本当は、ナルトの夢に入りたかったんだけど、ほら、俺センサイだからさー」
「繊細って、ちゃんと漢字かける?」
「むかつく男だってばよ! やっぱ俺はお前が嫌い!」
「そりゃどうも」
 ぺらりとめくった瞬間にイチャパラを取り上げられて、思わずカカシは情けなく手を伸ばして追った。
「ナルトにさ、何時までも大好きだって伝えて欲しいんだってばよ」
「俺が?」
「最初から言ってるってばよ!」
「でも、それってさ、直接ナルトに言った方がいいんじゃないの? こじれるよ?」
 心配そうに眉を寄せるカカシ。
「だから! 失恋した相手の所に顔見せられるほど俺は神経図太くねえんだってばよ?!」
「嫌いな俺のところはいいわけね」
「……あんな消え方したから、気にしてっかなって、思って……」
 決まり悪そうに唇を尖らせてナルはそっぽを向く。
 カカシはそんなナルの気遣いに大笑いした。
「俺、お前好きだわ」
 そういって、ナルの頭をばしばし叩く。
「……その、さ。ありがとうだってばよ。俺の最後言わないでいてくれて」
「聞いてたの?」
「まだ意識があったから。その後すぐ消えちゃったけど」
 ばしばし叩いていた手を止めて優しく頭をなでる。
「ナルトもお前が好きだよ。お前が思ってる好きとは違うと思うけど」
 反撃もしてこないで頭をなでられている。
「俺、ほら、精神体だからさ、まあ、エッチは出来るだろうけど」
「エッチする気だったの?! ずうずうしい!」
「黙って聞いてろよ。糞上忍」
 ナルは静かに怒ってカカシを見た。
「でもさ、精神体だから何時かは消えるから。まあ、ほれさせる自信は物凄いあったけどさ」
 よく言うよ。
 カカシは心の中でナルに突っ込みを入れた。
「もう、具現化はしないの?」
「しないんじゃなくて、出来ないんだってばよ。精神体だからさ、些細な事でも気にしちゃえば出来なくなっちゃうんだってば。夢を送るのでいっぱいいっぱい」
 少し苦そうに笑う。
「ナルトの身体の中にはいるんでしょ?」
 ナルは笑って答えなかった。
「さてと、そろそろ行くってばよ。おっさんの顔長々と見てるのも飽きた」
 立ち上がるとカカシに手を差し出す。
「ナルトを頼むってばよ」
「もう会えないの?」
「会えるんじゃねえの?」
「ナルトが謝りたいって言ってたからさ」
「ああ。じゃあ、腹の中にいるからって言っておいてよ。あと気にしてないから気にすんなって。本当はめちゃめちゃ気にしてるんだけどね」
 何処までが本気で何処からが冗談かは判らない。カカシは差し出された手を取った。
「じゃあ、またね」
「またか。いいな。またナルトとキスできたらいいな」
 そういってふっと煙が消えるように消えてしまう。
 最後の言葉がナルらしくてカカシは笑った。
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