月を見あげて風に煽られてる。
 ススキ野原をドウと風が凪いで行く。
「十五夜」
 世間ではお月見とか言いながら月を見る日だ。サクラちゃんはうきうきとサスケに「お月見しない?」そう声をかけて帰っていった。
 その言葉を聞くまで今夜が十五夜という事を忘れていた。
「月なんて興味ないってば」
 言いながら月を見上げる。十五夜は東の空をのぼりはじめたばかりだ。
 月光を集めるように両手を空に向かって広げる。
「先生みてえ」
 誰かも言ってたなと思い、両手を下ろしてうつむく。俺の告白なんかきっとカカシ先生は本気にしていないだろう。
 昼間カカシ先生に好きだといったら、ぽんと頭を撫でられ「ありがとね」と言われた。
「そーいう好きじゃないんだってば」
 子供がよく言う好きではない。性欲が伴う好きなのだ。今更つぶやいても当のカカシ先生はいない。
「切ないよな」
 男同士とか年齢差とか、色々あるし何と言っても俺には九尾が封印されてる。
 冗談に受け取られても聞いてもらえて満足だった。本当は満足ではないのだが、そう想わないとやりきれない。
 俺の想い、嘘にしなくちゃいけないのかな。
 その場に座って膝を抱える。
 胸がずきずきと痛くてたまらない。俯いていると涙が出そうになって慌てて月を見上げた。
「秘密だってば。お前と俺の」
 ほろりと涙がこぼれた。
 ほろほろと涙がとまらない。
「ちくしょう」
 自分の想いが漏れない様に自分自身を抱きしめた。

 時間って楽しい時にはあっという間だけど、辛い時には無限に感じるって、本で読んだことがある。
 俺もそう。
 カカシ先生と顔を会わせてる時は凄く長いなって思うけど、家に帰る時間になるとあっという間だなって思う。
 ふられたわけじゃないから余計一緒にいる時間が嬉しくて辛い。
 頭撫でられたら平気なふりして、笑うの辛い。
 でも構われないで他の子相手にしてるの見るのも辛い。
 矛盾だらけ。
 矛盾だらけだから俺はどうしていいのか判らなくなる。
 でも、カカシ先生を見てると身体の奥からむずがゆい気分になる。腰辺りがじんわりとしびれるような感じがして、ちんちん見たら大きくなってた。
 ぎょっとして、アカデミーの授業思い出して、泣きたくなった。
 俺、カカシ先生に性欲感じてる。
 どうすればいいのかわからないけど、裸で抱きしめてほしいと思ったり、キスしたいとか思ったり。
 想像するんだけど、先生とのキスだけ想像できなかった。だって、顔見たことねえし。
 じくじくとうずく様な感じに、たまらず、ちんちんを握る。触れた瞬間、びくって身体が震えた。
 シカマル達とエッチな本とか読んだり話してるから自分でする行為は知ってる。でも実際やるのは初めてだからすごい怖い。怖いというか恥ずかしい。
 こすると段々大きくなってくる。
 身体あちい……。
 先生のいろんな顔思い出したり、撫でられた感触とか思い出したりして、先生の名前沢山呼んだ。
 じわじわと首筋までに痺れが広がってきて、捕まえなくちゃと思って、身体ピンと張って感覚を鋭くした。
 脈動するようにお尻の穴から引きつるような感覚。
 手の中に精液を吐き出してそのままぼうっとしてる。
 吐き出した精液見たら泣けた。
 むなしくて泣けた。
 匂いかいで舐めてみた。
 こんな事やったって先生に思いは通じるはずないのに。
 精液だらけの手で俺は顔を覆った。

 両手を大きく広げてジャケットが風をはらむ。
 里で一番高いとこ。火影岩の上。
 自己嫌悪で走って走ってたどり着いた場所。
 こっから里を見下ろしてたら、人間ってけっこうちっぽけだなって思った。
 そのちっぽけな人間の一人に恋してるんだけどさ。
 先生について知ってること少ない。でもさ、一番重要な事は知ってる。先生は仲間が一番大切だって事。
 ……。
 先生の仲間って何人いんだよ。それって、その他大勢って事じゃないのかよ。
 気がついて落ち込んで、そのまま後ろに倒れた。草がつぶれた匂いがする。青臭い。俺と一緒。
 空を見上げたら羊雲が浮かんでいて秋なんだと思う。
 人恋しい季節。
 俺のカカシ先生を好きって気持ちも、人恋しい季節のせいなのかな。んな分けないって。だって、俺、大分前から好きだし。何時から好きになったか忘れちゃったけど。
 ああ、大切な仲間だって笑ったときだ。
 クラクラしたんだ。
 優しさとかじゃなくてさ、その言葉聞いた瞬間、
「俺、この人好き!」
 って思った。
 好きなところあげるのも、欠点あげるのも切り無いけどさ、カカシ先生だから好き。
 前にサクラちゃんが冗談で先生の好きなタイプ聞いてたけどさ、そん時、先生の好きなタイプに努力してなる! って思ったのに結局、先生は笑って答えてくれなかった。上手くサスケの事持ち出してサクラちゃんの話終わらせちゃった。
 こっそり先生の事観察したけどさ、結局誰にでも優しくて、特別って人がいない。いたらいたでショックだろうけどさ。
 判ったことって言えば、誰にでも平等なこと。優しい事も厳しいことも。そんで、先生を好きな人は沢山いるってこと。
 ため息が出た。
 沢山の特別の好きの中じゃ俺の好きなんかうずもれちゃってるんだろうな。あの人たちより特別なことって、俺の班の先生って事だけだもん。
 あー後ろ向き後ろ向き。
 あたって砕ける事もゆるされない。
 中途半端。
 もう一回言ってみよう。そんで駄目だったら、そうだなあ。
 泣こう。
 水ん中飛び込んで。そうしたら涙も目立たねえよな。
 
 どうしてか、こー言う時に限って中々二人キリになれなくてイライラする。
 サクラちゃんとサスケが帰ったの見届けてから、よし! と思って向き直ると、
「先生もこれから任務だから気をつけて帰ってね」
 とかにっこり微笑まれて、ドロンされたり。
 やっと二人気になれたなと思ったら激眉先生がいきなり割り込んできたり。何か? こいつら見張っていて俺の邪魔わざとしてるんじゃないのか?
 それとも、先生がわざと俺と二人きりになるの避けてたりとか。
 それ考え付いた瞬間、空気がドーンってのしかかってきた。
 そんな事ねえってば。って自分を励ましてみても、カカシ先生だよ? 上忍だよ? エリートだよ? ってもう一人の俺が心の中で囁くので、その度に気が重くなって本当にそんな気がしてきた。
 すげー不安でぐらぐらしてんのに、馬鹿サスケが、修行を見てくれとか何とかカカシ先生に言うもんだから、しかも、いいよ。なんてカカシ先生が嬉しそうにいうもんだから。
 なんつーか、自分、心狭いなあなんて、自己嫌悪。
 一緒に修行するって一言が、胸の痛みが邪魔をして言えない。サスケと同じ扱いなんて嫌っていうのもある。でも、そのくせ、サスケと二人きりで何するんだろう(修行だけどさ)もしや?! なんて。悪い考えばっかり頭に浮かんじゃって。
 久々にサクラちゃんと二人で帰れたのに、せっかくサクラちゃんが話しかけてくれたのに、全然楽しくなくて、生返事返してた。
 相談しようかなって思ったんだけど、サクラちゃんスキーとか言ってたのに、こんな相談凄い失礼じゃないかなとか思って結局ダンマリ。
 俺って馬鹿だなって思う。
 馬鹿だからどうしていいかわかんねーの。
 胸痛いけど治し方なんかちっともわかんねーし。
 気がついたら走ってススキ野原に来ていた。
 あたりに誰もいないことを確認すると、思い切り息を吸い込む。
「わああああああああ!」
 できるだけでかい声をだして、出して出しまくった。叫んでも叫んでも叫び足りなくて声が出ないのに、声出そうとして咳き込んだ。
 我慢できなくて走って走って、演習所の池に着くと服脱いで素っ裸で飛び込んだ。
 秋の水はすげー冷たかったけど、泣いた。涙だけすげー暖かい。
 まてよ。告白して振られてから泣くんだろ?
 そんな風に思ったけど、だめ。一度泣いちゃうと涙が後から後からあふれて、自分が自分を哀れんでるのにまた悲しくなって。息が続くまでもぐって泣いてた。
 月の光に気がついて、呼吸するために水面に顔を出した。
「なーにしてんの?」
 驚いて声のしたほうを振り向くとカカシ先生が池のほとりに立っていた。銀の髪にキラキラと月光が反射して、凄い綺麗で、心臓痛くなった。
「……泳いでるんだってば」
「寒いよ今日?」
 いいながらしゃがんで頬杖付いてる。
 あたりにサスケはいない。先生一人っぽい。ひょっとして、これはチャンス? いや、でも、このパターンだと誰かが邪魔をしに来るってのが落ちだってば。
 大きく息を吸い込んで水の中にもぐる。
 顔合わせづらいのもあったし、先生見てたら涙が出てきたから。隠したくてもぐった。
 どぶん。鈍い音が水を伝わってくる。
 先生が服着たまま目の前に現れたので、ためていた空気一気に吐き出した。慌てて水面を目指す。
「!」
 いきなり吸い込んだ大量の空気に水まで吸い込んじゃって、激しく咳き込む。上手く泳げなくて足が届く所まで移動すると、背中にごわっていう感触がして、先生の手が俺の前でクロスするのが、見えた。これって、抱きしめられてんの? かあっと耳まで赤くなる。腰までのぎりぎりの水面。透明だから俺が素っ裸なの判ったってば。
「何で泣くの?」
 びくって、自分じゃ震えるつもりなかったんだけど、身体が勝手に震える。
 これはチャンスなんだ。告白するチャンスなんだ。
「……あのさ、先生」
「ん?」
「聞いて欲しいんだけど。恥ずかしいからこのままで言うけどさ」
「うん」
 多分、この手はそーいう意味で抱いたもんじゃないんだろうなって判った。
「先生の事好きなの」
「俺も、ナルトが好きだよ」
 ああ。やっぱり。
 先生の言葉にはちっとも性欲とかそういうの感じられなくて、やっぱりと思って落胆した。
「ちがうんだってば、先生。先生の好きと俺の好きは違うんだって」
 がっかりした。その気になったのかと思って少し期待したのに先生は、ただ、教え子が心配だからここに見に来たのだ。
 「先生さ、俺思って自分でエッチした事ある? 俺、あるよ。先生とキスしたりとか裸で抱き合ってるとことか想像して。俺の好きってそーいう好きなの。だから先生の言う好きとは違うの」
 言ってしまった。ほっとした。ほっとして、ちゃんと告白してなかったなと思って、先生の腕を外して向き直る。
 先生は何時もの顔で俺を見下ろしていた。
「俺、先生が好き」
 そういうと先生は俺の視線まで目をおろして、じっと見つめてくれた。それから抱きしめられたけど、やっぱりそれは俺の期待している抱きしめ方ではなくて、先生が生徒に対しての愛情しか感じられなかった。
「ごめんね。俺、ナルトの事をそんな風に思ったことないんだ」
 俺も先生の背中に手を回して先生を感じた。
 これ、きっと最初で最後の抱擁かもしれないから。
「うん。いいんだってば。きいてくれてありがとうってば」
 いざ振られて見ると、ガラス一枚わった様な感じがした。泣くだろうなと思ったんだけど、涙出なかった。さっき出し尽くしたのかもしれない。それなのに、さっきより凄く悲しくて胸がキュウキュウ泣いていた。
「ありがとうね。俺を好きで」
「ごめんなさい。先生を好きで」
 有難う先生。俺の告白聞いてくれて。
 先生の身体が離れていく。穏やかな微笑を浮かべた顔を見たら凄く切なくなった。
「俺、もうちょっと泳いでいく」
 深みに向かって歩く。胸ぐらいまで水がくると、そのままもぐって泳いだ。
 このまま水に溶けちゃえばいいのに。
 切なくて悲しくて涙が止まらなかった。

カカシ編に続く


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