広い野原に一人少年が立っているんだ。
野原は夕焼けで黄金色に輝いて、同じ髪をした少年が背中を見せていたっているんだ。同系色の服を着てさ。
夕日に背中を向けて、夜のほうを向いてる。
ひどく悲しそうに見えたから声をかけたんだ。
ゆっくりと振り返って何時もと同じ笑顔で微笑むんだ。
「カカシ先生」
そう言って。
酒の席でナルトの話になるのはたいてい何時もの事で、特殊な生い立ちのためにやはり注目されてしまうというか、気にかけられるというか。
うまい日本酒が入ったとかで一升瓶ごと注文して、ぬる燗にしてもらった。今の季節この飲み方がいいのだという店主の言葉に従ってだ。冷とかぬる燗はついつい、杯を重ねてしまうので普段なら遠慮してたのだが、うまい酒の最高の飲み方。つまみは塩。これで飲みすぎないほうがおかしい。相手が紅とアスマって事もあるんだろうけど。気の合う仲間と飲む酒はなかなかとまらない。ついつい深酒をしすぎてしまう。
「お前、塩ばっかで飲んでると高血圧になるぞ」
アスマがさ、そういって、酒をついでくれるからまた杯を重ねてしまう。何時ものメンバー何時もの話。大抵は受け持ちの班の話だけど、仕舞いにはナルトの話になってる。化け狐がどうとかじゃなくて、本当に普通の大人が話すような会話。
「しかしまあ、あいつは、何と言うか、見てて飽きないなあ」
げらげらとアスマが笑えば紅も口元を押さえて笑う。
「子供らしいわね。ああいう子供らしい子供は最近見なくなった気がするわね」
「おお? うーん。ナルトの周りはそうでもねぇんじゃないか? ほれ、うちのシカマルとかチョウジとか」
「うちのキバとか」
「そうそう」
何がおかしいのかアスマは酒を飲むと何時も大笑いする。俺は最初は「そーね」とか「うんうん」とか適当な相槌打っていたけど、次第にだれてきて、返事するのも億劫になってちびりちびりと酒を舐めていた。
そのうち、ふっとアスマが素の顔でタバコをくわえた。
「でもよ。黙ってれば結構いい顔すんだよな」
「誰が?」
ナルトの事なんだろうなと思っていたけど、アスマがそんなことを言うのが信じられなくて、つい問い返した。
「ナルトだよ。普段、なんつーか、言動とかのせいで、顔とかめっちゃくちゃに崩すからとてもそう見えないんだけどな。こう、誰もいなくなってふっと顔とか作るのやめたときさ、いい顔すんの。美形……とはいえないんだけどな。まあ、子供だからな。まだ可愛いってのが入ってるからなあ。ありゃ成長したらかなりの玉になるぞ」
そりゃさ、親が美形だしね。この間もちょっと似ているところ見つけてドキリとする。普段は似てないくせにちょっとした仕草とか表情とか似すぎていて胸を締め付けられる。あの人の子供なのだと。
「子供でも美形はいるでしょう? サスケとか」
「でた、えこひいき!」
そういって、アスマが俺の肩をたたく。紅はつまみのたこわさをほおばって俺たちの会話を聞いてないようで聞いている。
「そりゃするでしょ。同じ写輪眼持ってるし、性格似てるし」
昔の自分を見てるようで、サスケ見てるとイライラしちゃうんだ。出来るなら間違った方向に進んで後悔はしてほしくない。俺みたいに。
「おれだったら、ナルト贔屓しちゃうね。なつくと可愛いし。まあ、俺のとこのがきどもには負けるけどね」
親ばかならぬ先生馬鹿が出たよ。それには紅も黙ってられなかったらしく、うちの子も可愛いのよ、と反論する。俺は黙って舐めていた杯を飲み干して手酌で酒を注いだ。
贔屓とは違うんだよ。
気になるんだよ。
あの、背中が。
金色の野に一人たたずむ少年。真っ直ぐで折れやすそうなその背中を抱きしめたいと思った。抱きしめて包んでしまいたいと。
「帰る」
突然ナルトに会いたくなって席を立ち上がる。
「お、何だ。女か?! 女のとこか?」
本当にアスマはよく笑う。酒が入ってるときは何時もより笑ってる気がする。
自分の分の酒代を置くと外に出た。月は真上に来ていて足元を明るく照らす。
普段ならこんなに明るい月をありがたいと思ったことはない。任務の邪魔になるから。でも本当は嫌いじゃない。
振り返る少年。
まるで、壊れた動画の様に何度も何度も繰り返されてどうして、そんなに気になるのかわからないけど。
「寝てるかな。寝てるだろうな」
ひょいと窓辺近くの木に登って中をのぞけば、意外と寝相良く眠っている。
「何だろね、これ」
しゃがみこんで頬杖をつく。イライラするようなそうでないような。覚えがあってあまり気づきたくもない感情。
「おれ、どうするべきなんでしょうね。先生」
担当上忍に似ている月を見上げたが、答えは返ってくるはずもなかった。時空超える力があるなら今ここに来て答えを教えてくださいよ。
気になって気になって見つめてきた子供。
センセー、おれ、どうすりゃいいんですかね。
月の明かりが煌々と、ナルトにも俺にも里にも降り注いでいた。
おわり