ウソツキ【鉢←久々:R】
鉢屋三郎とこんな関係になったのはつい一ヶ月前の事だ。
「兵助、もっと足あげて広げろよ」
「む…」
無理と言おうとして言葉が詰まる。思わず木に爪を立てて声を殺した。
こんな関係とは男女みたいにまぐわう関係であって、それが外で今俺は背中を大木に預けて片足を三郎に抱えられ一物を尻の穴に入れられてる状態だ。
やる前まで尻の穴なんかで感じるものかと思っていたのだが、つっこまれて腰を振られると最初こそは痛みしか感じなかったが最近では頭の中が真っ白になるくらい気持ちよくなってしまって、消えそうになる意識で声を上げないように手で口を押さえるのがやっとだった。
別に恋仲ではない。
鉢屋三郎は不和雷蔵が好きなのは周知の事実だし、俺、久々知兵助は特に恋愛ごとに興味が無かった。
はずだった。
「……」
「!」
三郎が追い込みをかけるように腰の動きを早くするので叫びそうになった口を両手で押さえる。
痛みと快楽と。
「くっ」
三郎が達した。三郎のが中に流れ込んでくるのがわかった。
だから俺は自分もいった振りをして尻の穴をきゅっとしめる。しめて長い吐息をつく。
それが終わりの合図。
お互い身づくろいをしてそれ終了だ。
「先、いってるぞ」
「あ、うん。まだかかりそうだから」
尻の穴につっこまれてやると射精が遅くなるのが判って、三郎は先に俺は出し切ってから、その方が都合も言い事もあるんだけど、帰ることにしてる。後は三郎の出したものの後始末もあるけど。
最近は嘘ついてこの後自分で処理しているんだけど。
お互い出し合うから精液がどっちのかなんて判らない。
その場にペタリと座り足を広げる。尻の穴から出る三郎の白いのを見ながら自分の人差し指と中指を舐めてゆっくりと沈めていく。
「ん……」
泥のように指を包む。すんなりと入る指を動かせば、身体がはじけた。入れた左指を出し入れしながら己自身を右手で握る。
「は」
声をふさぐ両手は使えないのでぎゅっと唇を噛み締める。
「ん…くっ…」
腰から競りあがってくる快楽を捕まえようと目を閉じると真っ暗になった。まぶたの裏に三郎を思い浮かべて自分を追い上げる。
名前を呼んではいけない。
名前を呼びたい。
「あっ!」
音さえも飲み込む白さに、身体をまかせた。自分のものが手を汚すのを感じる。
精液見て自分の愚かさに涙がにじむ。
なんで、好きになってはいけない人を好きになってしまったのか。好きになってはいけなくはないが、思いは返されないのはわかりきっているのに、何で好きになってしまったのか。
長い長い先ほどより長い息を吐いてしばらくぼうっとした後に身支度を整えた。
近くの水場に行って下半身だけ水につかり中から三郎のものをかき出しながら自分の下半身を綺麗にしていく。
着物を濡れないようにたくし上げて口で咥えた。全身で水浴びするにはまだ寒かったからだが、脱いでしまえばよかったかなと思うくらい水は温かかった。
「……」
岸に着物と頭巾をほうりなげる。ついでに結わえていた髪紐を解く。ざぶざぶと水の中に入る。肩の深さまでくるとざぶんともぐってみた。
ぼこんぼこんと空気の音がする。
しばらく沈んでいたが息が苦しくなる。
「兵助くん。こんにちは」
浮上すると斉藤タカ丸さんが手を振って立っていた。
「タカ丸さん……」
「まだ寒いよ? 風邪ひいちゃうよ?」
小首をかしげながら聞いてくる。年上らしからぬ態度に思わず笑ってしまった。
何でこの人はここにいるんだろう。
三郎と性交するから人が居ない場所を選んだはずだが、そのいない筈の場所に何で入学したてのタカ丸さんがいるのだろう。
見られた?
不審気にタカ丸さんを見てると、いきなりふにゃっと顔が歪む。
「あの、あのね。帰り道知ってる? ここ何処なの?」
なんて半泣き状態で聞かれて体中から力が抜けた。単に迷子だったのだこの人は。
「ちょっと待っててください」
ざぶざぶと岸に向かって歩く。タカ丸さんのすぐ傍に俺の着替えがあったからだ。この着物を見つけたからタカ丸さんも俺に気が付いたのだろう。
「うん。ごめんね。兵助君ごめんねー」
持ってた手ぬぐいで軽く身体を拭くと手早く着替える。頭はどうしようもないので軽く絞ってそのままにしておいた。
「ふわー。濡れると益々艶やかだねえ」
俺の髪を一房手に取るとタカ丸さんは口付ける。この人が火薬委員に入るきっかけも俺の髪だった。
しょっぱなからタカ丸さんは「あでやかだねえ」と隙あれば俺の髪を弄りたがる。
「つやつやも、サラサラも手入れすれば大抵はどうにかなるけど、艶だけは持って産まれたものだからね」
「それは良い事なんですか?」
「んー女の子だったら良い事だろうけど、男の子はどうなんだろう」
三郎とのきっかけも髪だったなと今更思い出した。
いやらしい髪だと言って地面に押し倒された。俺は拒まなかった。
それだけだ。
「でも、男でも女でも俺は構わないけどね」
ぐいと手を引かれてタカ丸さんの方を向くと抱き寄せられた。口付けられそうになって咄嗟にタカ丸さんの口を手でふさぐ。
「俺、そういうの好きじゃないです」
「そういうのって?」
意地悪そうに目元と口元が歪んでる。判っててやってるんだこの人は。
「鉢屋くんとはしていたのに」
やっぱり見られていたんだ。
だろうな。この場所はあそこから近いし、タカ丸さんが現れた調子を見ればそんなに遠くにいたわけでもないだろうし。
「見てたんですか」
まあ、そう考えるのが妥当だろう。
この人は女の代わりに俺を抱きたいのだろうか。
「脅しですか?」
「どうだろう?」
「抱きたいならどうぞ」
三郎にさえ抱かれてれば後は他の誰かに抱かれても同じだ。
着けたばかりの着物の帯に手をかけると止められた。何なのだと問うように顔を覗き込めば寂しそうな目とあった。
「もし、僕じゃなくても同じ事した? 鉢屋くんとの事見られて脅されて」
「だって、抱きたいだけでしょ? 女の代わりとして。三郎、鉢屋だってたまってたから俺の事抱いてるんだろうし。別に」
どうでもいいですよ。
そう続けようとして口が動かなくなった。言葉を出せなかった。タカ丸さんが俺の口をふさいだわけでもないのに。言いたくなかったから自分で止めてしまったのだ。
何か言おうとして言葉を捜すけど、何も浮かんでこない。
「忍者になるんだし、きっとこれから先こんな事沢山ありますよ。情報引き出す為に敵と寝たり、殿様が求めれば身体差し出したり」
目をそらしてそんな事言うのがやっとだった。
「ウソツキ」
短く鋭く言われて思わずタカ丸さんを見ると、見知った目がそこにあってぎくりとした。
「どうしたの? 兵助くん?」
小首をかしげて質問するのはタカ丸さんの癖だけど、何で。何でタカ丸さんに化けてそんな事聞くんだ。
鉢屋三郎。
もう、お仕舞いなのかなと感じた。
もう、鉢屋三郎は俺を抱く事はないんだろうなと思った。
偽者の顔に手を伸ばし一撫ですると悲しくて笑いがこみ上げた。
「何でもありませんよ。タカ丸さん」
別に恋人でもなんでもなかった。
俺が一方的に思っていただけの関係で、三郎は俺の気持ちを知らなかった。
それだけなのだ。
終わり