■死体
 先程の暗部二名を見つけると、カカシはその前に立ちふさがった。ジロリと睨みを利かせると慌てたように二人は目を交わす。
「気に入らないね。そーいう黙秘。仮にも俺が受け持ってる子が何らかの被害を受けたはずなのに、報告すらない」
「……」
 あまりの気迫に一瞬おされたが、さすが暗部。二人ともぐっと踏みとどまると、面の奥からカカシを見据える。
「……」
 双方睨みあったまま、まんじりとも動かず、時間だけが過ぎていく。
「おいおい。そう、暗部をいじめるでない」
 場にふさわしくない能天気な自来也の声に空気が緩んだ。
 暗部二人を追い払うように手を振ると自来也は困ったように笑ってカカシを見る。
「自来也さま」
 じれたようにカカシが声をかけると、付いてこいと自来也は顎をしゃくった。
「あの、ナルトは」
「医務室に預けておるから安心せい。一応、そのまま病院に入院させる」
 地下へ地下へと降りて、向かっているのが死体安置所なのだなと分かると、瑣末を聞きたくて何度も口を開きかけるが、自来也の背中は語りかけることを拒否していた。
「すまんな。今回はすべてが予想外だったのだ。何もかも。わしは、こんなに」
 自来也は当たり障りのない事だけを話した。ここ一ヶ月で木の葉の里の東側の宿場街に殺人事件が起こっていたこと、被害者は12人。性的暴行はない。遺体のどれもがある一つの条件を満たしていること。
「少年で、金髪碧眼ですか」
「そのとおり。さすが上忍じゃの。察しがいい」
 かかかと笑う自来也。カカシすらも自来也の前では子ども扱いだ。
「死体をみたんじゃがの。わしは、結構死体というものを見慣れてるもんじゃがな。見た瞬間吐き気がこみ上げた」
 ぎゅっと手のひらを握っている所を見ると死体を思い出したのだろう。
「わしが見たのは二体だがな。一体目は綺麗に皮がはがれておって、二体目は筋肉ごとはがされておった。内臓や骨はその場にのこされておったよ。他の十体も似たり寄ったりの状況での」
 はっとカカシは目を上げた。
「大蛇丸……」
 反魂の術を思いだしたのだ。しかし、自来也は静かに首を振る。
「大蛇丸は容姿に固執しない。あやつが興味があるのは力、血継限界だけじゃ。一瞬わしも大蛇丸を思い出したがの」
「とすると……」
 カカシは頭の中のビンゴブックをめくる。めくっただけでも何人も思い浮かんで見当が付かない。
「……」
「まさか」
 同胞殺し。その言葉を飲み込むカカシ。
 言葉が途切れる。二人とも黙ったまま階段を下がっている。下駄の音がやけに大きく響く。抹香の匂いが段々と強くなってくる。死体安置所ということもあり気休めだろうが、一応香が焚かれ、入り口には献花がされている。色々な宗教とかもあるだろうが、火の国の慣習にならって香を焚き献花してある小さな机が入り口の横においてある。その隣に研究所兼遺体管理の事務があり、自来也はガラス窓を叩いて中の医療忍者を呼んだ。
「自来也様」
 慌てて一人の上忍が出てくると、二人を見てうなずいた。
 電子ロックが外れる音がする。
『どうぞ、「に」の1938番です』
 中に入るとブロック分けされた壁がずらりと並んでいた。側面にいろは記号がかかれており、正面は一見すると壁のようだが取っ手が隠れるように付いてある。
「防腐処理したばかりだからの。ひょっとすると凍ってないかもしれんな」
 クワンクワンと自来也の声が反響する。自来也は「に」の棚まで来ると1938番を探した。
「お、これだの」
 がこん。
 重い音をを立てながらスライドさせて下ろす。半透明の保護シートに包まれた死体の肌の色が見えた。
 自来也は防護用の手袋をすると手際よくとめ具を外しシートを開きカカシに場所をゆずる。
「!」
 一目見てカカシは唖然とした。自分がいた。髪の色、細部は違うが、顔と背格好はほぼ一緒だった。慌てて左目をめくろうとしたが、自来也に止められる。
「馬鹿者。素手で触るやつがおるか。安心しろ。普通の瞳だ。術跡がないだろう」
 懐から二枚の写真を取り出してカカシに渡す。両目を開いてこちらを見ている写真、多分証明写真、と、もう一つはやはり証明写真なのだが、見たこと無い男が写っていた。輪郭はカカシに似てないこともないが、顔立ちはひどく凡庸だ。
「わしはこんなに、失敗したと悔やんだ事はない」
 先ほどの会話の続きらしいと、カカシが顔を上げると、見たことも無い位、後悔の色を浮かべた自来也の顔があった。
「そいつはな。たなかカカシという名前なのだ」
「たなかカカシ……」
「顔を変える前と、変えた後だ」
「整形……」
 話がまだつかめず、カカシは二枚の写真と死体を見比べた。
 自来也は出すときと同じ手際で死体をしまう。
 外へとカカシの肩を叩くいて促した。
「戻るぞ」
 カカシなりに話を推測しようとしたが、嫌な考えしか浮かんでこない。
「あの」
 何度か声をかけたが無視されてしまう。
 結局人生上々まで何も聞けずじまいで気ばかり焦っていた。ナルトはどうしたのか。あの自分そっくりな「たなかカカシ」は一体何者で何の係わりがあったのか。それよりも何よりも多分、不安で怯えてるナルトを抱きしめて安心させてあげたかった。今出来ない行動に焦れて胸元で拳を握る。胸が痛い。

 

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