■解決
 気がつくと手足が動かない。目の前は真っ暗で何も見えない。誰かがナルトの頭をゆっくり撫でていた。
「君は本当に、そっくりなんだね」
 たなかカカシの声だ。目元に手を感じた瞬間光が飛び込んできた。
 まぶしさに目を顰めると、たなかカカシがナルトを覗き込んでいる。腹に手を感じた。そのままするすると下腹部に向かって移動している。ナルトはぎょっとした。シャツだけ着せられて下は何もはいてないらしい。確かめるように顔を少し持ち上げて下腹部方向を見るとベッドの柱とソレが目に入った。
「!!!!!!!」
 声にならない叫び声がナルトの口からほとばしる。
 死体がガラスケースに入って液体に浸されていた。丁度理科室のホルマリン漬けのようだ。異様なのはつぎはぎだらけの傷跡だ。
「ああ、あれはもういらないの」
 性器を撫でられて震えが走った。嫌悪感でだ。
「だって、完全な君が手に入ったんだもの。ほら、何から何までそっくり」
 首筋に唇が落とされる。
 ナルトは抵抗するが、拘束された手足が自由に動かない。両手は一つにまとめられ頭の上のベッドの柱に固定されているのに両足は左右に膝立ちができるくらいのゆるさでそれぞれ縛られている。
 違うと判ってはいるが、そっくりな顔にそんな事をされるのは嫌だった。いや、顔がそっくりなだけの他人にやられるのは嫌だった。
「めて…」
 かすれるように声が出る。
「ねえ、君は俺の好きだった人にとても似ている。素晴らし人だった。里の為にその身を犠牲にしてさ。何であの人が死ななくちゃいけないのか。さっぱり判らないよ。でもさ、復活する術があるんだって。あの人が生き返ったら俺は英雄だろうな。そしたら、今度はつまんない一般人じゃなくて、あの人の隣に並んで立てるんだよ」
 狂信者がいるという事は聞いた事がある。四代目を神に祭り上げ崇拝して止まない人々がいる事を聞いた事はある。ナルトは話を聞きながらその人たちを思い出していた。木の葉の里にもいる。二通りいて、ナルトを四代目の意思どおり英雄として祭り上げているもの、ナルトのせいで四代目が死んだと嫌うもの。狂信者ならこの人はどちらだろうとナルトは焦った。前者ならまだ命まではとらないだろうが、後者だったらひょっとしたら殺されるかもしれない。殺されるならいいが、ナルトの中の九尾が目覚めて殺すかもしれない。他人と判っていてもカカシそっくりな人間を殺すのは嫌だ。
 不意に、顔を半分隠したカカシが優しく微笑んでる顔が思い浮かんだ。
 頭を撫でる優しい手。ふざけて怒られた時のちょっと怖くない怒り顔。真剣に怒った時の怖い顔。
 時々振り返ると見せてる優しい顔。
 もう、二度と見れないかも知れない。
 もう一度会いたい。ずっと傍にいたい。
 どうにかできないかと手首にチャクラをためる。
 ペニスに生暖かい感触がする。舐められてるのだと判ると、ナルトの心は恐怖でいっぱいになった。たまっていたチャクラも下がってしまう。
 カカシ先生!
「カ、カカシ先生ー!」
 思い切り名前を呼ぶ。はたけカカシの名前を。
 突然出したナルトの大声にたなかカカシはぎょっとしたが、次の瞬間には目に怒りをたたえてナルトの口に目隠ししていた布をこじ入れた。
「折角声が出なかったのに」
 ぐいぐいと押し入れるたなかカカシの顔は普通だった。普通だからナルトは怖くて仕方なかった。
 あの死体のようになってしまうのだろうか。
 出ない声で何度もカカシを呼ぶ。
 自由にならない体がもどかしい。抵抗するのだが、あっさりと抑え込まれてしまう。起たない性器から唇を外したなかカカシはナルトの頬を撫でた。
「なんて、理想的なんだろう」
 顔を振ってたなかカカシの手から逃れようとするが、しっかりと押さえられてしまう。
 やだ! さわんな!
 ナルトはたなかカカシを睨みつけた。その顔に眉をしかめてたなかカカシはナルトの膝を割る。
「!」
 閉じようとしても、身体を入れられて閉じられない。指先が内腿を撫で回す。
 ばん!
 その瞬間、いきなり扉が開いた音がした。
「なんだ?!」
 たなかカカシは慌てて身体を起こし音のした方向に走る。あちらにドアがあるのだろう。
「ぐあ!」
 鈍い音が聞こえる。次にどさりという人の倒れた音。
「大丈夫? ナルトくん?」
 覗きこんだその顔は副担任の顔だった。片手に黒い蜀台を持って覗き込んでいる。
 がらんと蜀台をほおりだすとナルトの手足の紐を外し、起き上がらせる。
「……」
 しばらくは動けなかった。ショックで声が出なかった。
 それでも手足をひらひらと振ると副担任はほっとした笑顔を見せた。助けに来てくれたのがカカシではなかったがナルトはほっとして身体が震えた。
「よ、よかった」
 縄を解かれて起き上がると部屋全体が見えた。部屋の一角に手術台の様なものが置いてあり、その上は血でべったりと汚れていた。ホルマリン漬けにされた死体も二体あって、見た瞬間ナルトはえづいた。
 片方は眼球があったが、もう片方はぽっかりと黒い穴が二つ開いてた。
 部屋の中央にたなかカカシが倒れており、後頭部からは血が流れている。たなかカカシの傍には丁度先程副担任が投げた蜀台が転がっていた。
「ど、どうしよう。わ、私、人……」
 がくがくと震えだす副担任の身体にナルトはしがみつく。本当は抱きしめてあげたかったのだが、自分も副担任以上に動揺して怖かったのだ。
 ぴくりと、死んだはずのたなかカカシの身体が動いた。
 のろのろと起き上がり恨みがましい目をナルトと副担任に向けている。
 その光景にナルトは咄嗟に副担任をかばう。震えていたが忍者のプライドが少し復活していて、一般人である副担任をどうにか守らないとと言う気持ちが身体を動かしたのだ。
「くそ!」
 たなかカカシは転がっていた蜀台に手を伸ばし、両手で握ると振り上げた。重さによろけはしたものの真っ直ぐにナルトに向かって振り下ろしてくる。
 その瞬間クナイがたなかカカシの首筋に刺さる。
 飛んできた方向を見ると暗部二人が構えている。
「遅れてすまん」
 少し息を切らせて自来也が戸口に立っていた。
 その姿を見た瞬間ナルトは安心してふっと意識を手放したのだ。

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