■10年後
 子供は女になっていた。
 医療忍者を目指してがんばっていた。一人でも多くの患者を助けたくて。
 他の里で暮らしていたが、やはり悲しい事があっても生まれた土地は離れられないもので、女は医療忍者を志願して木の葉の里に戻ってきた。
 大分歳をとってからの志だったので周りからは「やめておけ」と言われたが、女にはそれをカバーするだけの頭脳があった。砂が水を吸収するように女は知識を頭に入れていった。
 特に外科分野は面白くてたまらなかった。
 晴れて医療忍者の証を貰った時はとても嬉しくてたまらなかった。
「おい、例の子供だ」
 同輩が慌てながらばたばたと駆けていく。
「例の子供?」
 女が聞くと同胞は「うずまきナルトだよ」と答えて、はっと口を噤むが、女が大人である事と今後、医療忍者として知っておかなくてはならない事を考慮して、静かに口を開いた。
「ここだけの話にしてくれ。うずまきナルトは四代目が九尾を封印した子供だ」
 遠くから幼い泣き声が聞こえる。目の前で踏み潰された両親が何度も何度も女の中で殺される。
 九尾!
 ぎりぎりと拳を握る。
 搬送された子供はかなり酷い怪我をしていた。上司の医療忍者が三名ついて治療をしながら病室に連れて行く。
 何で助けるのかしら。
 そのままほって置いて殺せばいいのに。
 視線でナルトを殺したかった。
「なに? 虐待した奴その場で処分?」
「ひでえ。何で。九尾じゃないか」
「じゃあ、お前達は集団で子供苛めて、殺す寸前までいたぶるのが正義って言うの? 処分っていっても膝の皿割られたくらいなんだから、軽いじゃないの。あの子が受けた暴力より」
 顔を半分隠した忍者が下忍たちの喋りに割り込む。確かはたけカカシという女でも知ってる有名な忍者だ。
 あの子が死ねば九尾だっていなくなるじゃないの。何で殺さないのよ。
 そう思いながら女はその場を離れる。怒りしか沸いてこない。
 暫くすると女は木の葉の里の近くの繁華街の病院に配属された。そこで、たなかカカシと言う男に出会う。彼は四代目を崇拝していた。
 彼女はその時思いつく。
 うずまきナルトを自分の手を汚さず殺害して、尚且つ自分の手で殺す方法を。
 多少の犠牲は必要だ。
 女は変わりになる人間を見つけ、すりかわるべく爆発を起こす。派手に起こった爆発にまぎれて女は自分を殺し別な人間になる。
 幸か不幸かその中にたなかカカシもいた。しかも事故後たなかカカシははたけカカシそっくりに整形していた。
 罪を擦り付けるにはもってこいの状況だ。
 女の思惑通り、囮捜査にナルトを使ってきた。金髪や銀髪というのは忍びには不向きで、大抵は色を変えるか剃ってしまう。カカシ上忍の様なエリートならいざ知らず、敵に発見されやすいからだ。だから忍びになる者は小さい頃から薬で色を変えるか、剃髪しているのだ。親のいないナルトはそんな事も判らないせいか、金髪を伸ばしていた。ナルトが中忍試験を受けているということも聞いた。木の葉崩しの時活躍した噂も。
 一種の賭けだったが女は賭けに勝ったのだ。笑いが止まらなかった。
 しかも声がつぶれてるときている。静かに殺すのは好都合ではないか。
 しかもたなかカカシはあの子に性欲を抱いてる!
 何時もみたいに耳元で囁けばよかった。
 取りなよ。
 たなかカカシはぶつぶつと呟いて、そうだな。それで完璧だと乗り気だった。
 たなかカカシを殺してからナルトを殺し、間に合わなかったといえばいい。
 助けた振りをしてして安心させれば殺すのは簡単だろう。
 すがりつくナルトの背中で女はクナイを構えた。が、予想外の自体がおこる。たなかカカシがゆらりと起き上がったのだ。傍に落ちていた蜀台をナルトに向かって振りおろす。
 好都合だ。自分の手を汚さないで済む。
 でも自分の手を汚しても汚さなくてもどちらでもよかったのだ。うずまきナルトを殺せるなら。
 あの日伸ばした手は空を切った。
 違うのだ。あの時彼女は闇を捕まえていたのだ。
 女は闇の手を取って哂った。

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